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[プチ鹿島]天龍源一郎から漂う、背負われた“昭和”の文字



8月16日に新日本プロレス『G1クライマックス』の最終日を現場でみていたときのことだ。私は雑誌の取材でプレスパスで入らせてもらっていて、国技館の通路の奥で立って試合をみていた。

第5試合が終わったときだ。休憩前の館内の空気とは対照的に、私の通路側の後方で明らかに空気がピリッとし始めた。なにごとだろう。後方はドアを隔てて選手控室に通じる長い廊下しかない。

「天龍さんが来ているらしいですよ」

関係者が私に耳打ちした。「え?」と思った瞬間、私の横をまさに天龍源一郎が通り過ぎていあったのである。

歩き方はドカドカと音が聞こえてきそうな迫力だった。いてもたってもいられずに気持ちが先に突き進んでいった、という感じだ。長年の激闘からくる天龍選手の腰のコンディションについてはファンなら誰でも知っている。だから早足は意外だった。それだけ何か激しい感情と決意を抱えてリングに向かっているのだ。

その姿に気づいた通路側の男性客が「あ、天龍だ!天龍っ!」と慌てて叫ぶ。その声が伝播し、自分の目で確認した人たちの掛け声が国技館をあっという間に包む。
天龍が新日本プロレスのリングにやってきたのは11月15日の引退試合の「相手」への直談判だった。まさか乗り込んでくるとは。

「昭和のプロレスを味わう最後のチャンスだぞ」天龍は目の前にいるオカダ・カズチカに言った。

そして9月2日、正式に引退試合のカードが天龍とオカダのシングルマッチと発表された。

以前からスポーツ紙では名前があがっていたが、しかし本当にオカダとやるとは。しかもシングルマッチとは。

オカダ戦が発表された日、「天龍プロジェクト」の最後の後楽園ホール大会を観戦したら、ここでも最後にマイクを握った天龍は「あの野郎をぶっ潰してやります!」 と叫んだ。セレモニーとしてのマイクではない。決意表明だ。観客も唸ったような声で呼応する。

天龍の言葉の端々から漂うのは「昭和」を背負っているということだ。感傷的な引退試合にしようなんてさらさら思っていない。ピリピリしている。

だから間違っても我々は「天龍さんありがとう~」などという迂闊なセンチメンタリズムで11月15日に国技館に足を運んではいけないのだ。心して臨まなければならない。決闘なのだから。

ウキウキワクワクのプロレス観戦も最高だ。でも、「どうなってしまうんだろう」という不安と「何かとんでもない日になるのでは」という想像が交差する、昭和のプロレス観戦があと2ヶ月でやってくる。

天龍には最後までしびれる。


プチ鹿島
PROFILE
1970年5月23日生まれ。お笑い芸人。オフィス北野所属。時事ネタを得意とする芸風で、新聞、雑誌などにコラムを多数寄稿。ラジオ番組「東京ポッド許可局」(TBSラジオ)、「荒川強啓のデイキャッチ」(TBSラジオ)、「キックス」(YBS山梨放送)ほか、TVや映画など多方面で活躍中。





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2014年8月7日発売 新書判304ページ





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