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トライアウトの裏側…プロ野球「戦力外通告を受けた男たち」密着ドキュメント

[ヴィーナス01月05日号]

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トライアウトの裏側…プロ野球「戦力外通告を受けた男たち」密着ドキュメント

 11月10日、15年目となる「プロ野球12球団合同トライアウト」が、静岡草薙球場で行われた。チャンスをつかめるのは、わずか数名。たとえ契約にまでこぎつけても、再び第一線で活躍できる選手になると、12球団で1人出ればいいほう。いわば“超狭き門”なのだ。

「あそこで合格する選手はどうせ、最初から話はついてるんでしょ?」 そんな声も聞こえてくるなど、昨今は制度そのものの形骸化も指摘されているのが実情でもある。しかしそれでも、当日は独立リーグなどに所属する元選手を含む、投手33名、野手14名の計47名が、一縷(いちる)の可能性を信じて、同地に参集。トライアウトを「宝の山」と評した中日・落合博満GMをはじめとした多くの球界関係者が見守るなか、シート打撃方式の実戦テストに挑戦した。

「思い出作りのような格好悪いことはしたくない」 同じ“戦力外”の立場でも、そう言ってトライアウトを回避する者も少なくない。当然、読者の中にも同様の冷めた見方をしている方もいるだろう。 だが、金銭的な思惑が絡むFAと違って、そこに集いし選手たちが皆、一様に持つのは「一日でも長く野球がしたい」という、純然たる想い。悲壮感さえ漂わせる、その一途さこそがトライアウトの醍醐味であり、ロマンなのである。そんなドラマを目にするべく、本誌は現地取材を敢行。崖っぷちの男たちを追った。

「いろんなチームで若返りが報じられているのを見聞きしちゃうと、“やっぱり俺も辞めたほうがいいのかな”って気持ちがよぎることもありました。でも、自分は収入も実績も十分なスター選手とは違う。だから思い直したんです。自分みたいに最後まであがく選手が、一人ぐらいいてもいいんじゃないのかなって」 阪神を戦力外になった加藤康介がこう口にしたように、今季の球界では、例年にない“引退ラッシュ”が巻き起こった。受験した選手最年長37歳の加藤は、若手主体の参加者の中でも、とりわけ異彩を放っていた。

「もちろん今回は、同じ戦力外でも“どこかが絶対に拾ってくれるだろう”という自信もあった5年前とは気持ちのうえでも、まったく違う。でも、自分がここまで来られたのは周囲の支えがあったから。だからこそ、これが最後になってもいいから、本当に居場所がなくなるまでは続けようと思ったんですね。地元の静岡で開催というのも、何かの縁なのかなと思いましたし」

 地元・清水商から日大を経て、00年のドラフト2位でロッテを逆指名。2年で20勝(25敗)を挙げた加藤は、オリックス・大久保勝信と新人王を争うなど、かつては“次代のエース”とも称される逸材だった。だが、その後は伸び悩み、金銭トレードで移籍したオリックス、次いで横浜、そして阪神と所属先を転々。今回を含めて3度も戦力外通告を味わった。「オリックスで初めて戦力外になったときは心の準備も何もなかったから、10キロ近く激ヤセしてしまうぐらい、精神的にもかなり参ってしまってね。トライアウトを受けたときには、ユニフォームもダボダボで“お前、そんなんで投げられるんか”と心配されたんです(笑)」 それでも、拾われた横浜で執拗にインコースを攻める“左殺し”として開眼。阪神時代の12年、13年シーズンを合わせると、合計100試合以上に登板して、83イニングで自責点はわずか14。防御率1.51という抜群の安定感も披露した。

 彼にとっては、トライアウトの持つ可能性を自らの経験として知っていたからこそ、あえて臨んだこの日の登板。与えられた3打席を、見逃し三振を含む三者凡退と、自身の中でも納得のいく結果も出した。年齢的なものを考えれば、彼の“再就職”は極めて難しいものがあるだろう。だが、それでもなお、5000人を超える観客からは、“地元のスター”である加藤に対して、この日一番となる大きな声援が送られたのだった。

 参加した33人の投手陣の中には、“ポスト松坂世代”の甲子園優勝投手として、日本ハム時代の02年に9勝(11敗)をマークした正田樹(四国IL・愛媛)や、阪神時代の07年に8勝を挙げた上園啓史(楽天)、日本ハム2年目の10年に、中継ぎながら、39試合で10勝1敗6H、防御率2.63と活躍した榊原諒(オリックス)といった、新人王に輝いたことのある選手たちの名前もあった。

 前出の加藤と前後して相次いで登場した彼らも、全盛期の投球とはいかないまでも、それぞれに持ち味を発揮。ことにNPB以外に台湾球界、米マイナー、BCリーグと渡り歩いてきた苦労人の正田は、投ゴロ、空振り三振、見逃し三振と貫禄の投球を披露し、観客を大いに沸かせてみせた。

 一方、プロ入り5年未満で早々に見切りをつけられた若手の中には、ルーキーイヤーの13年に、広島・前田智徳に痛恨のデッドボールを当てて、大バッシングを浴びた左腕、江村将也(ヤクルト)や、“千手観音投法”とも称された変則左サイドスローが脚光を浴びた中後(なかうしろ)悠平(ロッテ)らの姿もあった。「1年目だったから、次の日も投げたし、(デッドボールに)落ち込んでいるヒマなんてなかった。結果がついてこなかったのは、単純に僕の力不足。好不調の波が激しいのを、自分でもどうにかしようと臨んだ今年だったんですけどね」 こう語る江村は、昨季オフに決断した左ヒジのクリーニング手術の影響で大きく出遅れ、今季早くも戦力外。ようやく“まともに”投げられるまでに回復した矢先の非情な通告だった。

「一番いいときと比べると今は7割ぐらい。実戦感覚がほとんど戻ってない中で、ある程度は思ったように投げられたんで、そういう意味では悔いはないです。もちろん“これから、どんどんよくなるだろう”という手応えもありますよ」その言葉通り、自身の出番では、空振り三振を含む三者凡退。気迫の込もった投球で、「まだやれる」という気概を示してみせた。

 他方、ロッテを戦力外になった中後は、3連続四死球と、かねてから指摘されてきた制球の悪さが、そのまま露呈してしまう残念な内容に終わった。「悔しいし、情けない。この甘さが今の僕のすべてです」と、うなだれた。「それまで部活としてやっていたものが、仕事に変わって、結果を求めるあまりに悪循環に陥ってしまった。結果が欲しすぎて、無用な緊張をしてしまう。結局は自分のメンタルの弱さが原因だと思います」

 入団時は、1位指名ではなかったことに憮然とした表情を見せたほど。デビュー戦では、1死満塁を2三振で切り抜ける新人離れした強気なピッチングも披露し、藤岡貴裕、益田直也と同期の新人3人で、お立ち台に立つこともあった。だが、その後は苦悩の連続。勝ち気な発言とは裏腹に、驚くほどに繊細だった彼のハートは、プロとしての重圧をはねのけることができずに、この日を迎えることになったのだった。

 なお、参加者の少なかった野手では、未来の“和製大砲”としてファンからは絶大な人気を誇った鵜久森淳志(日本ハム)が注目を集めた。その他では“支配下登録”にこだわり、育成での再契約という条件を自ら断ってトライアウトに参加した白根尚貴(ソフトバンク)と、NPB復帰を目指して、今季はBCリーグ・福島でプレーしたヤクルトの元育成、佐藤貴規の好対照な2人が、ともに猛打賞と気を吐いた。「もう1年あったら、ホークスでもチャンスはつかめたかもしれない。でも、どのみち最後のシーズンになるなら、自分で動いて、自分の決断で“どこにも入れませんでした”となるほうが後悔せずに済む。支配下で入った以上は、終わるにしても支配下にこだわって終わりたかったんです」

 こう語った白根は、“山陰のジャイアン”と呼ばれた高校時代とは別人のような精悍な面持ち。聞けば、たび重なる怪我や手術を経験している間に、100キロ以上あった体重は一時78キロにまで落ちたという。「でも、そのおかげでスイングはより鋭くなったし、持ち味の長打を生かせるようにもなった。4年目の今季を一つの区切りに、大卒1年目のつもりでやれたらと思っています」

 トライアウトから10日を経た11月20日現在、高校の先輩でもある梶谷隆幸のいるDeNA入りが発表されたこの白根を含め、次の所属先がすでに決まっているのは、先の鵜久森(ヤクルト)、山内壮馬(中日→楽天)、金伏ウーゴ(ヤクルト→巨人育成)のわずか4名のみ。10名以上が合格した昨季と比べても、トライアウトは、いっそう狭き門となりつつある。

「受けるかどうかをずっと迷っていたんですけど、ドラフトの候補に挙げられていたチームメイトたちが指名されずに落胆している姿を見て、彼らの分まで僕が頑張ろうと思ったんです」 そう言って、2年連続でのトライアウト挑戦を決めた佐藤は、実兄・由規(ヤクルト)の助言でBCリーグに活路を求め、今季は打率3割2分6厘と福島の主力として活躍。「一時は諦めかけた野球を続けてよかった」と振り返った。

 だが、今のところ、そんな熱い想いを秘める彼自身に手を差し伸べる球団はなく、兄の由規も、来季は育成契約に“格下げ”というのが現実でもある。選ばれし者たちだけがスポットライトを浴びる、プロ野球という厳しき世界。明暗の分かれた彼らの、これからにも注目したい。

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