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「認知症治療」最前線~最新の研究は、ここまで進んでいる!

[週刊大衆2016年12月19日号]

「認知症治療」最前線~最新の研究は、ここまで進んでいる!

 人類はこれまで科学の力で幾多の困難を解決してきた。国民を悩ませるこの疾病も、いつか治せる日がくるのだ。

 11月23日、認知症治療に携わる人々の間に衝撃的なニュースが走った。米大手製薬会社の『イーライリリー』社が、アルツハイマー型認知症治療薬『ソラネズマブ』(点滴静注製剤)の開発を断念すると発表したのだ。

 とはいえ、一般人には、このニュースの意味は少々分かりづらい。全国版厚労省担当記者が解説する。「このソラネズマブは、世界中の最先端研究機関が認知症治療薬の開発を進める中、最も早く“フェーズ3”に入り、近く、その結果が発表されるとみられていたからです」

 この「フェーズ」というのは、治療薬が承認されるまでの段階のことで、安全性と効果の臨床試験をしている段階が「フェーズ2」(「1b」と呼ぶ機関も)で、そこで安全性が確認されれば、より多くの臨床試験を行うのが「フェーズ3」。そこをクリアすれば、めでたく承認となるわけだ。「ところが、フェーズ3の結果が良くないと判明したので、開発断念となったのでしょう」(前同)

 競馬で言えば、ゴール目前で大本命が落馬したようなもの、関係者および新薬を夢見る患者には大ショックだったのだ。世界には現在、5000万人ともいわれる認知症患者がいるが、そのうちの約6割がアルツハイマー患者。そのため、新薬開発の中心はアルツハイマー治療薬となっている。

「日本では、すでにエーザイの『アリセプト』を筆頭に4種類の認知症治療薬があります。しかし、これらの効果は、認知症の進行をせいぜい半年から1年遅らせるに過ぎない。対症療法薬で、根治薬ではないのです」(同)

 予防や進行抑制しかできないのが現状なのだ。そこで今回は、認知症の治療がどこまで進んでいるのか、その最前線を覗いてみた。というものの、実は認知症が発症するメカニズムは、いまだによく分かっていない。ただし、アミロイドβというタンパク質が大脳皮質周辺に溜まり、結果、神経細胞が死んでしまうとの説が有力だ。アミロイドβの増加に反比例して脳の中にある海馬は縮小し、それに伴い、脳が委縮する。

 そこで、多くの研究者は、このアミロイドβを除去する“抗アミロイドβ抗体(抗Aβ抗体)”を探した。冒頭の、「ソラネズマブの開発を断念」というニュースが衝撃的だったのは、この抗Aβ抗体を用いた新薬の開発に勤しむ研究者が多数派を占めているからだ。

「00年代から、この抗Aβ抗体タイプの新薬開発が進められ、その数は20近くにも上りましたが、半分以上が中止を余儀なくされた。それは、アミロイドβを除去できても、認知機能は改善しない臨床ケースが続出したためです」(医療ジャーナリストの牧潤二氏)

 アミロイドβが神経細胞を死滅させるという仮説自体が、間違いではないかとの見方が、だんだん有力になってきたというのだ。「除去ではなく、アミロイドβを作る酵素をカットしてアミロイドβ自体を作らせない『BACE阻害薬』というタイプの新薬も多く開発中です。しかし、現在のところ、いい結果は出ていません」(前同)

 そんな“アミロイドβ仮説”が形勢不利の中、15年3月、米バイオテクノロジー企業『バイオジェン』社が学会を驚かす。世界で初めて、脳内のアミロイドβが減少するとともに、認知機能の低下も抑制したとのデータを発表したからだ。これは、バイオジェン社が開発中の抗Aβ抗体タイプの新薬『アデュカヌマブ』のフェーズ1bの結果に基づくものだったが、この点滴静注製剤が治験対象としているのは、早期アルツハイマー病および軽度認知障害(MCI)の人々。

「MCIは、すでに脳内にアミロイドβが溜まり始めているものの、まだ認知機能の明らかな低下は見られない、認知症の前段階で、ここで放置すると、5年後には約半数の者が認知症に移行するといわれています。多くの抗Aβ抗体タイプの開発薬は、認知症が発症してしまった人を対象にしていますが、こちらは、それより前に取り組もうというわけです」(前出の記者)

 バイオジェン社の日本法人『バイオジェン・ジャパン』広報担当者に話を聞くことができた。

「抗Aβ抗体タイプの他社の臨床事例は、認知症の発症後ではあまり良い結果が出ていなかったので、それなら、もっと早く、MCIの段階ならどうか、ということで取り組みました。フェーズ1bの臨床例は166。プラセボ(偽薬)とアデュカヌマブを、それぞれ1、3、6、10ミリグラム投与したものを比べると、投与量が増えるほど認知機能の低下が少なくなるという結果が示されました。世界中で2700人を対象に行われているフェーズ3に、日本も6月から参加しています。どんな結果が出るか楽しみです」(バイオジェン・ジャパン広報担当者)

 フェーズ3の終了予定は2022年とのことだが、早く治験を進め前倒しにして、2020年代前半にも製品化を目指したいという。かように、一進一退を繰り返す抗Aβ抗体タイプの研究だが、他の種類の新薬も開発が進められている。

 富士フイルムとグループ会社の『富山化学工業』(東京都新宿区)は、『T-817MA』という錠剤を開発中だ。この新薬は、脳の神経細胞を強力に保護する働きがあるとされるタイプ。これが大いに注目を浴びているのは、08年から米国で実施された治験で、中程度の認知症患者にも効果があるとの結果が出ているからだ。

「他社がアルツハイマーになる作用メカニズムを探し、その仮説に基づいて新薬を開発しているのに対し、うちは脳神経の培養細胞などを用いて、その神経細胞などが死んでいくのを抑えると思われる薬を、いろいろ試し発見したのです」(富山化学工業の広報担当者)

 このT-817MAは現在、14年5月から開始したフェーズ2の段階にあるが、それも年内に投薬が終わるので、結果が良ければ、ほどなくフェーズ3に入ることになる。2021年の日米同時発売を目指しているという。このように、製薬会社が新薬の開発でしのぎを削っている一方で、既存薬を転用し、認知症治療に役立てようという動きもある。その代表と言えるのが、『国立循環器病研究センター』(大阪府吹田市)で行われている、抗血小板薬『シロスタゾール』のMCIの人向けの研究だ。

 シロスタゾールは、もともと脳梗塞の再発を防ぐ薬だが、14年の2月、それを服用していた高齢者の認知症進行度が遅いことに気づいたのだという。「認知症は“脳の糖尿病”ともいわれますが、シロスタゾールは、そもそも血流を良くする働きがありますから、糖尿病にも投与されます」(前出の牧氏)

 15年半ばから200例に及ぶ「医師主導治験」が始まっているという。「この医師主導治験は、主に患者が限られ、市場に出にくい新薬開発に実施されます。しかし、今回の場合は既存薬の転用で、期待もできる。既存薬の転用なので安全性の治験が省かれる分、うまくいけば製品化は早いでしょうね」(前同)

 今の治験は2018年に終了。製品化は早くて22年だという。また、今年3月には大阪市立大学などの研究グループが、結核などの治療薬(抗生物質)に予防効果があるとマウス実験で確認されたと発表。転用タイプは開発期間も短縮できるうえ、コストも低いため、今後も続々と出てきそうだ。

 もっとも、前出の牧氏によれば、ゼロからの新薬開発の場合でも有力な効果があるとなれば、介護費、医療費のコストが大幅に抑えられるため、ほどなく保険指定になるという。したがって、庶民でも高額な価格に苦しむことはないのだ。一方、まだ研究は始まったばかりながら、近い将来、さらに有力な「根治薬」と呼ぶにふさわしい新薬が登場する可能性も大いにあるようだ。

「今では認知症は、アミロイドβだけでなく、“タウ”というタンパク質のゴミのようなものが、神経細胞に多く溜まって、初めて発症するようだと分かってきています。このアミロイドβとタウの関係はまだよく分かりませんが、実はタウ除去のほうが重要との見方もあるのです。したがって、今後はタウをターゲットにした新薬候補が多く出てくると思われます」(牧氏)

 その点、昨年末、学習院大学の高島明彦教授らが、不整脈などに使う『イソプロテレノール』という薬にタウの凝縮を阻害する働きがあると発表した件は、まだマウス実験の段階ながら大いに注目されている。今後、認知症治療の治験へ進むかもしれない。そうかと思えば、今年、ノーベル賞を受賞した、大隅良典・東京工業大学栄誉教授の「オートファジー」研究の応用に期待するとの声もある。

「オートファジーは、細胞が、不要になったタンパク質を分解して栄養源に再利用する自食作用。認知症は、“加齢とともに細胞内に悪いタンパク質などが溜まることが、神経の活動に悪影響を与えている”との説が本当なら、オートファジーを利用して、アミロイドβやタウを除去できるかもしれません」(厚労省担当記者)

 さらには、薬ではなく、なんと健康食品だが、東京大学が開発中の『ワクチン米』も注目される。「アミロイドβの遺伝子を入れたコメのことで、これを若いときから食べて体の中に抗体を作り、アミロイドβの増加を抑え、予防しようという試みです」(前同)

 抗体(ワクチン)自体は他の野菜でもいいが、アミロイドβをたくさん作れて、日本人の生活に密接な食材がコメだったというわけだ。「注射だと、およそ6%の人に副作用が見られるのですが、月に2・3回、茶碗一膳の普通のコメにワクチン米を100粒ほど混ぜて食べるだけでいいのですから、こんな楽な予防法はありません」(同)

 以上、見てきたように、認知症根治薬の開発は日進月歩。多くの人が苦しむ前に、一日でも早く開発してもらいたいものだ。

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