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金正男暗殺の余波…中国が「北朝鮮・金正恩を見捨てた」理由

[週刊大衆2017年03月20日号]

金正男暗殺の余波…中国が「北朝鮮・金正恩を見捨てた」理由

 朝鮮戦争時に劣勢の北朝鮮軍を助け、大量の義勇兵を送り込み“血の友誼”と呼ばれた中朝関係は“過去のもの”に!!

 北朝鮮の最高指導者である金正恩(キムジョンウン)氏が、正念場を迎えようとしている。

「北朝鮮の“陰の庇護者”を務めてきた中国から、愛想を尽かされてしまったからです。北朝鮮がこれまで、国際社会から制裁を課せられながらも存続できたのは、中国の援助があったからです。歴史的に見ても、北朝鮮は中国を盟主とする1500年に及ぶ冊封体制に組み込まれており、いわば“主従の関係”でした。朝鮮戦争では、毛沢東が北朝鮮に100万人規模の義勇兵を送り込んでいますが、これは“血の友諠(ゆうぎ)”といわれています。そのおかげで金日成(キムイルソン)は、劣勢だった戦局を挽回することができ、両国の絆はさらに強固になったわけです。ただ、それも過去のものとなりそうですね」(外務省関係者)

 これまで血の結束を誇った中朝両国。その関係が崩壊した理由はもちろん、金正男(キムジョンナム)氏の暗殺事件である。

「実行犯はともかく、暗殺作戦を指揮したのは、北朝鮮最強の“謀略機関”とされる偵察総局でしょう。化学兵器に分類される猛毒のVXガスをマレーシア国内に持ち込み、これをエージェントに仕立てた若い女性に噴霧させ殺害するという残忍な手口でした。在マレーシア北朝鮮大使館の関与も囁かれており、金正恩氏のトップダウンで実行された作戦である可能性が極めて高い」(軍事ライターの黒鉦英夫氏)

 この蛮行に中国首脳はブチキレたという。北朝鮮事情に詳しい早稲田大学名誉教授の重村智計(としみつ)氏が言う。「金正男氏は、中国にとって金正恩体制崩壊後の“保険”という意味でも極めて重要な人物だったため、中国は強い憤りを感じているはずです。今後は面子にかけて、正男氏の家族を匿っていくはずですよ」

 金正恩氏は、13年12月に北朝鮮で“ナンバー2”と目されていた張成沢(チャンソンテク)氏を処刑している。重村氏は、この処刑が「中国が北朝鮮への不信感を一気に強めた契機だった」と指摘する。張氏は正男、正恩両氏の父である金正日総書記の妹と結婚しているため、2人にとっては叔父にあたる。また、張氏は金正日体制下では側近として仕えていたため、国際社会からは、最高指導者を世襲した正恩氏の“後見人”だと考えられていた。しかし、そうはならなかった。

「張氏は長らく中国とのパイプ役も務めていました。北朝鮮が海外で行う様々な貿易や合法、非合法を含む各種ビジネスも一手に仕切っていたともいわれます。さらには、中国で“裸官”と呼ばれる汚職幹部のマネーロンダリングにも関与していたという噂もありました。張氏が粛清されたのは、こうした情報が正恩氏の耳に入ったからともいわれています」(通信社記者)

 中国の政権中枢で北朝鮮と関係が深いのは、上海閥と呼ばれる政治勢力とされている。上海閥のトップは江沢民元国家主席。15年10月に朝鮮労働党創設70周年の記念行事に出席したのも、上海閥出身で序列5位の劉雲山(リュウユンシャン)氏だった。

「ただ、中国国内での上海閥の地位低下は凄まじいものがあります。習近平国家主席は太子党と呼ばれる派閥のリーダーですが、彼はこれまで上海閥が牛耳ってきた中国国内の利権をすべて取り上げつつあります。上海閥の凋落は、中国国内で北朝鮮の庇護者が減ることを意味していますから、正恩氏としても気が気ではないでしょう」(前同)

 そのため、金正恩氏と習主席の関係は良好ではないとされており、それが証拠に、正恩氏は一度も“北京詣で”をしたことがない。さらには、中国人民解放軍でも“北朝鮮シンパ”は激減しているという。

「これまでは、人民解放軍の瀋陽軍区が北朝鮮軍を支えてきたといわれています。朝鮮半島有事の際、真っ先に投入されるのは瀋陽軍区の兵士でした。そのため、同軍区には予算も過剰に配分されていたようです。ところが、習主席は昨年の2月に軍区制を改編し、7つあった軍区を5つの戦区に変更してしまったんです。これで北朝鮮軍と人民解放軍の“陰の連携”は途絶えてしまった可能性があります」(前出の黒鉦氏)

 また、人民解放軍で進む世代交代も、北朝鮮には不利に働いているという。「人民解放軍では、北朝鮮への援護を主張する長老派が存在感を発揮していました。ただ、そうした人材も少なくなっているのが実情です」(前出の重村氏)

 パイプ役であった張成沢氏の処刑、上海閥の凋落、人民解放軍の改編……中国における北朝鮮シンパの数は激減の一途をたどっているというのだ。そうした文脈の中で起きたのが、中国が匿っていた金正男氏の暗殺事件だったわけだ。ただ、この暗殺劇は“起こるべくして起こった”と見る向きもある。

 中国事情に精通した評論家の宮﨑正弘氏が言う。「正男氏は5年もの間、命を狙われていましたが、中国はマカオ以外では警護の手を緩めていた節があるように思います」

 一部では、「中国に配慮して、マカオでの殺害は控えていた」と報じられているが、中国側にも北朝鮮側を“信頼”して、その“忠誠心”を試していた部分があったのではないだろうか。そして、その期待は完全に裏切られる格好となった。

「中国は昨年、北朝鮮に対する国連の制裁決議に初めて賛成しています。さらには、高官をモスクワに派遣して、ロシアに制裁に賛成するよう説得したほどてす。これ以降、中国の対北方針は変わったと見るべきですね」(重村氏)

 実は金正男氏が暗殺される前から、中国は対北方針を変更していたのである。「暗殺事件が起きた6日後の2月19日から、中国は北朝鮮産石炭の輸入も凍結しています。期限は今年いっぱいですが、その間、北朝鮮側が態度を改めなければ、来年も制裁を継続するはずです」(前同)

 一方で、食料と原油の提供は継続している。「原油は日に50万トン。ロシアからも日に20万トン入ります」(同)

 ただ、北朝鮮が核開発を中止しなければ、中国が原油の提供をストップする可能性もあるという。さらに、中国側には北朝鮮に対して実力行使に出ざるをえない状況があるようだ。

「トランプ政権ですよ。米国務省は、北朝鮮をテロ支援国家に再指定するとともに、水面下で金正恩体制後のシナリオを作成中で、米ロ中による一時的な共同統治案も浮上しているようです」(前出の通信記者)

 共同統治というオプションは、オバマ政権時にすでに提示されていたという。「オバマ政権の提案に対し、習主席は回答を避けていました。これは、中国側が“米国案を認める代わりに、南シナ問題には口を出すな”という取引を持ちかけようとしていたからではないでしょうか」(前出の宮﨑氏)

 地政学的に見て、北朝鮮の動向に最も影響を受けるのは中国である。「中国は北朝鮮を“自国の裏庭”と考えているはずです。ですから、金正恩体制が崩壊して裏庭に米国やロシアが入ってくることは大変な脅威なんです。米側は核施設への空爆作戦や、米韓共同で金正恩氏の除去を意味する“5015作戦”を検討し始めたという情報もあります。そうなる前に、中国側が自らの手で現体制を崩壊させる決断を下すかもしれません」(黒鉦氏)

 重村氏は、「中国が直接手を出す可能性は低い」と前置きしながらも、こう指摘する。「北朝鮮軍内に“現体制では持たない”という判断が生じた場合、クーデターに発展する可能性があります。その際、中国側は人民解放軍を通じてクーデターを支援する可能性はあります」

 また、宮﨑氏は、「中国には貿易などのビジネス面で北朝鮮側とルートを持つ人間が多くいますので、そうしたチャンネルを用いて、北朝鮮の軍や党へアプローチするのでは。こうしたシナリオが実現するのは、北朝鮮が“中国以外の国の庇護を画策している”ことが確認されたときでしょう。加えて、崩壊後の北朝鮮に据える“傀儡政権”の準備が整っている必要もあるはずです」

 金正恩氏が中国の面子をこれ以上潰すようなことがあれば、北朝鮮に“Xデー”が訪れる……!?

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