鶴田法男(撮影・弦巻勝)
鶴田法男(撮影・弦巻勝)

 僕は小学3年生のとき、家の廊下で、見知らぬ男が両親の部屋のふすまをスーッてすり抜けていく姿を見たんです。後ろ姿だったので顔は見えなかったのですが、あれは幽霊だったと今でも信じています。そんな体験がきっかけでホラーに向き合うようになり、ホラー映画の監督を務め、ありがたいことに、今では“Jホラーの父”なんて呼ばれるようになりました。

 僕がホラーにこだわり続けるのは、人間は恐怖なくしては生きていけないと思うからです。たとえば、崖の縁を歩かないのは落ちるのが怖いと分かっているからで、そういう恐怖を理解している人のほうが絶対、生き残れると思うんです。ホラーに触れて、多くの人に、そうした生命力を養ってほしい、なんて思っています。

 作品作りという点でいうと、監督って、何か特別な技術を持っているわけじゃないんですね。「こういう映画を撮りたい」という、プランを組み立てることが一番の仕事。そこで、技術のエキスパートである、カメラマン、音声さん、照明さん、俳優さんに、プランを伝えていくんです。

 すると、彼らも考えやアイディアをもっているから、それを彼らなりに表現してくれる。僕一人の考えでは万人に届かなかった作品も、そうした研鑽の中で、1000人、1万人と多くの方に届くものになるんです。

 だから、僕は彼らへの尊敬の念を忘れないように、現場に臨んでいます。坂本龍馬の言葉で「事は十中八九まで自らこれを行い、残り一、二を他に譲りて功をなさむべし」というのがあるけど、監督ってまさにそういうことなんだと、監督業を30年続けてきて、思うようになりました。

 このたび、日本での公開が決まった最新作『戦慄のリンク』も、多くの協力があって完成した作品です。今作は中国で作られた作品なんですが、一番ありがたかったのは僕を誘ってくれたことですね。

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