西ナイル熱が流行する危険も

そうして、いったん国内に蔓延(まんえん)すると、その被害を食い止めることは難しい。

「戦時中の例では、敗戦後、日本にやって来たGHQ(占領軍)が日本をデング熱の汚染地帯だと認識しました。ボウフラが湧きそうなところたとえば、空襲用の防火水槽やお墓の花入れにたまった水などを徹底して浄化するまで、流行が続きました」(同)

大流行する理由は、いくつかある。

「蚊が行動できる範囲は一般的に50メートルといわれていますが、強い風が吹けば、行動範囲はより広がります。それから人。たとえば東京で感染した人が地方に行って蚊に刺されたら、その蚊が媒介して、その地域でデング熱が蔓延することになります。また、地球温暖化の影響で、冬でも蚊が飛んでいる時代。夏が終わったからといって、安心できないんです」(同)

それだけではない。害虫防除技術研究所代表で医学博士(衛生動物学)の白井良和氏も警鐘を鳴らす。

「感染した蚊が卵を産み、次世代にウイルスが継承される可能性も否定できません。感染した1匹の蚊から新たに50匹の感染した蚊が生まれ、20匹程度が生き残って、感染が拡大していくという可能性です」

では、実際にデング熱にかかったら、どのような症状を引き起こすのか。

元傭兵(ようへい)の高部正樹氏は、タイ・ビルマ国境のジャングルでデング熱を発症した体験をこう語る。

「熱がガーッと40度以上まで上がり、体全体を激痛が襲います。治療薬はないので、解熱剤を医者からもらいました。4~5日で治りましたが、高熱が出るので、体力のない子どもやシニア層は大変危険です」

だが、警戒すべきはデング熱だけではない。さらに、凶悪な伝染病まで蔓延する危険が高まっているという。

「ウイルスには増加するタイミングがあります。今回、デング熱の感染者が増えたのは、国内に流行するための好条件がそろってしまった背景があると思います。そうなると、デング熱と同様に、ヒトスジシマカが媒介する、ウエスト(西)ナイル熱などにも注意する必要が出てきます」(前出・白井博士)

西ナイル熱は、もともと西ナイル地域で発見されたウイルスだが、99年に、発生例のなかったニューヨークで突然患者が発生。4年でほぼアメリカ全土に広がり、03年にはアメリカ国内で少なくとも150人以上が死に至ったという。

アメリカの例では、特に50歳以上のシニア層の致死率が高く、致死率10%というデータもあるという。

「日米間の交流を考えると、デング熱のように日本にも上陸する恐れがあるため、対策がすでに講じられています」(厚生労働省関係者)

こうなると、過去に日本を襲った伝染病も無視できない。たとえばマラリアだ。

平安時代には平清盛がマラリアにかかり、連日高熱にうなされて亡くなったと言われているが、マラリア原虫を媒介するハマダラカは日本にも生息している。

「ハマダラカは宮古・八重山群島の湿地帯に生息していますが、温暖化の影響で生息地を広げている恐れがあります。また、アフリカとつながりのあるヨーロッパでは、空港周辺で海外渡航の経験がない住民が、航空便で運ばれたマラリアに罹患(りかん)するケースも報告されているんです」(前同)

前出の高部氏は、重度のマラリア(脳性マラリア)に冒された経験もある。

「42度の高熱が出て、熱帯なのに体がブルブルと震えるほどの悪寒に苦しめられました。熱が上がったり下がったりを繰り返すため、体力をかなり消耗します。熱が下がるときは、ベッドがビショビショになるほど大量の汗をかきます。3日以内に処置をしないと死に至り、かつ高熱のため臓器不全に陥る可能性もあります。私の知人もこれで命を落としました」(高部氏)

そんな、死を招く"凶悪伝染病"から身を守るためには、蚊に刺されないことがまず重要だ。

「公園や墓地のほか、個人宅でも庭付きの場合は、蚊に刺される危険があります。マンションの場合、5階以上は大丈夫ですが、低層階のべランダでガーデニングをする場合は、肌を露出しないなど、注意したほうがいいでしょう」(前出・白井博士)

しかし、国外から迫り来る脅威はそれだけではない。西アフリカで大流行し、1500人以上の死者を出しているエボラ出血熱。

なんと医療界では、日本上陸がささやかれているのだ。

「遠いアフリカでの話と思っていたら大間違い。日本に上陸する可能性もあるとみて、大学病院の医師や看護師が密かに集まり、対策会議が開かれているんです」(前出・医療関係者)

その理由はこうだ。

「感染拡大の発端となった、ギニアの2歳男児の感染ルートの1つとして、ウイルスに汚染された果物が挙げられたんです」(前同)

エボラウイルスの宿主は果物を主食とするフルーツコウモリとされているが、それらがかじった果物を男児が食べたことで感染した疑いがあるという。

「フルーツコウモリは東南アジアにも広く分布しているうえ、台湾やベトナムなどでは、コウモリを食べる習慣もあります。西アフリカのような事態がアジア全域で起きる可能性は十分あるんです」(同)

こうした危険に加え、シニア層にとって油断ならないのが、国内に古くから潜伏する伝染病だ。

特に要注意なのが結核。

「漫才コンビ・ハリセンボンの箕輪はるかも09年に感染し、話題となりました」(前出・芸能記者)

結核といえば、明治期に"国民病"と言われる大流行を見せた死病。新選組隊士の沖田総司や俳人・正岡子規をはじめ、結核を患って亡くなった歴史上の人物は数知れない。昔の伝染病という印象が強いが、現在、その勢いは増している。

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