2年前の民主党大惨敗時と同じく、奇しくも増税政局と相成った"総力バトル"。浪速の刺客の秘策とは――。

安倍晋三首相が、一世一代の大勝負に出た。
乾坤一擲の解散・総選挙である(12月2日公示、14日投開票)。全国紙政治部デスクが言う。

「7~9月期の国内総生産(GDP)が前期比で0.4%減。年換算で1.6%減と予想外のマイナスに沈み、来秋予定の消費増税の先送りを決定しました。国民の目には"アベノミクスの失速"と映り、以前からの支持率低下も歯止めが効かない。このままではジリ貧に陥ると判断し、野党の選挙態勢が整わない今こそチャンスと、解散に打って出たんです」

多くの国民からの「大義なき解散だ! 国民をバカにするな」の声もなんのその。まなじりを決し、イチかバチかの大博打へと突き進んだ。政治ジャーナリストの鈴木哲夫氏が、首を傾げつつ言う。
「消費増税を先送りにしても、"それは法律で担保されており、経済状況を鑑みて実施時期を延期する"と言えば済む話です。不安要素が見え始めた景気対策にしても、緊急の補正予算を組み、アベノミクスに新たな柱を据えていく方法だってありました」
やはり大義がない!?

「自民党の選対関係者などは、"今、総選挙に打って出れば、最大で30議席減の可能性もある"と頭を抱えていました。仮に安定多数と言われる249議席を下回った場合(現有=295議席、衆院定数480議席)、国会運営が厳しくなるばかりか、党内から"安倍降ろし"の声が噴出する事態も考えられます」(前同)
なのに、なぜ?

首相に近い自民党中堅議員が言う。
「安倍首相が本当にやりたいのは、集団的自衛権の行使容認など、安全保障政策の見直し。祖父の岸信介・元首相の悲願だった憲法改正を"どうか自分の手で"が口癖で、そのための改正発議には衆院の3分の2以上、320議席が必要。現状では、まったく足りていない」
そこで解散・総選挙。長期政権で機を窺い、戦後レジームの脱却を期す首相。

その一方、この突如降って湧いた"平成の乱"を前に、現在、一人ホクソ笑んでいるのが、「維新の党」共同代表の橋下徹大阪市長。"安倍自民党100議席減"ともなる仰天プランを、すでに水面下で実行中というのだ。
「解散風が吹き始める前から、橋下さんは、いつ選挙があってもいいようにと準備を始めていました」と言うのは、維新の党の選対関係者。
「10月23日、次期衆院選に向けて、候補者100人以上を擁立する方針を決定。11月7日には早くも公募を開始し、同日、国会議員団・松野頼久代表代行は、"政権を狙う選挙に持ち込む。(現在67人の公認候補に加えて)あと40~50人の人材は欲しい"と強調して、政権奪取を標榜しました」(前同)

100人の自公議員に対して"1人1殺作戦"。しかし、橋下氏は大阪で"一国一城の主"。国政に直接乗り出すとは、何事か。やむにやまれぬ事情があるという。
「橋下氏の一丁目一番地"大阪都構想"が浮沈の瀬戸際にあり、彼もまた起死回生の勝負に出ざるをえない状況です」(在阪記者)
現在、橋下維新は、大阪府・市議会ともに過半数割れ。都構想の実現には、他党の政策協力が不可欠だ。
「そのカギを握るとみられていた公明党が、当初の大阪都構想賛成から一転。今、橋下維新の前に立ちはだかっているんです」(前同)

一歩も前進しなくなった大阪都構想を前に、業を煮やした橋下市長は辞表を叩きつけ、先の3月、「民意を問う」と出直し市長選へ。
「結果は、市民の信任を得て市長職継続となったものの、公明党の翻意は得られず、今もって大阪都構想は宙に浮いたままの状況です」(大阪市議=維新)

2012年末の総選挙時、公明党は大阪都構想に一定の協力をすると"約束"したが、まさかの裏切り行為。「公明は人の道に反した。絶対に許せない」と言い放った橋下氏。都構想頓挫の恨みは根深いようだ。まずは今回の総選挙で橋下氏自身の出馬(予定)選挙区を、憎き大阪・公明党の牙城、衆院大阪3区(公明党議員が現職)に設定。続いて、盟友の幹事長・松井一郎大阪府知事も同16区(同じく現職は公明)に"カチ込み出馬"を予定。
「総選挙を控え、橋下氏はすでに候補者ポスター用の写真撮影を終え、現在、出馬に必要な事務手続きに入りました。あとは、市長職をいつ辞し、総選挙立候補宣言をぶつか、タイミング待ちです」(前出・市議)

政治評論家の浅川博忠氏が言う。
「維新の国会議員団、それも関西出身の若手議員たちから、橋下氏への出馬要請は突然のことでした。彼ら関西出身の議員の多くは、当時、"維新旋風"に乗って当選しました。ここで橋下氏が出馬となれば、地盤沈下気味の党勢に喝が入って、総選挙で優位に戦えると踏んでの要請です」
橋下パワーはいかほどか。
同氏が続ける。「ただ、橋下氏が出馬予定の大阪3区は、公明党の金城湯池の地(きんじょうとうち)。加えて、今回の総選挙は低投票率が予想されており、組織票を持つ自公両党に戦いを挑むのは、いかに橋下氏といえども容易な戦いではありません」

一方で、前出の鈴木氏は、「橋下パワーは、いまだ衰えず」として、こう言う。
「晴れて国会議員バッジをつけた橋下氏が、予算委員会の質問席で安倍首相と対峙。ここで丁々発止の論戦を展開すれば、橋下氏にとっても維新にとっても、大きなPRとなる。ゆえに、与党に押されっぱなしの維新の国会議員団の中には、"橋下氏国政待望論"があるんです」
維新旋風よ、再びそう願ってやまない彼らだが、神頼みの無策で挑むわけではない。"安倍自民党100議席減"ともなる仰天プランとは、はたして?
「橋下氏だからこそ、できることがあるんです」と言うのは、ベテランの在阪記者。

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