先日、「迷宮の花街 渋谷円山町」(本橋信宏・宝島社)という、ノンフィクションルポが発売された。時代の最先端、渋谷駅の周辺にあって、今も花街の風情を残す円山町の歴史や成立した背景に迫った1冊だ。花街を経て都内有数のラブホテル街になり、現在は若者が集う大箱クラブが並ぶエリアとしても知られているこの町……。長きに渡り男と女が集う町としてあり続けた円山町とはなんなのか? そして1997年に発生した、東電OL事件の隠された真相とは? 著者の本橋信宏氏に、円山町の真実について、インタビューを試みた。

――昨年出た著書、『東京最後の異界 鶯谷』に続く、異界シリーズの第2弾ですが、なぜ円山町を選んだんですか?

「他にも上野や五反田、川崎と候補はあったんですが、渋谷にしたのは、個人的な思い入れがあったんです。まず、ファンだった栗田ひろみという女優が1973年に『放課後』という映画に主演しているんですが、その舞台が渋谷だったんです。青学付近が出てくるんですが、栗田ひろみと渋谷はあくまでも個人的な思い入れであり、やはり以前取材してきた東電OL事件の現場であったり、風俗業界の知り合いがいた円山町が書き下ろしには向いているだろうと思ったわけです」

――事件当時、月刊現代で東電OL事件の取材をしていますね。今も未解決のこの事件は、やはりまだ心にひっかかるものがありますか?

「終わったことはもう掘り起こすな、という人もいますけど、今もあの事件は解決していませんからね。このままあの事件が忘れ去られるのは寂しいと思うし、あの現場をもう一度歩いて、彼女の心の底を探ってみたかったんです」

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写真・北村咲子


事件当時はすでにラブホテル街だった円山町だが、かつては400人以上の芸者がいる、一大花街だった。今は料亭もわずか3軒。芸者も4人となってしまっている。

――現在も現役の円山芸者、鈴子姐さんに取材していますが、印象はどうでしたか?

「和服の女性には興味なかったんですが、鈴子さんを目の前にした時は和服の女性もいいなあと(笑)。しんなりとしていて日常を忘れてしまうというか、なんともいえない雰囲気がありますよ。

――写真が載っていますが、本当にキレイですね。

「また鈴子姐さんは、けっこうズケズケと遠慮なくものを言うんですよ。でもそれが社長とかお偉いさんは、たまらないんでしょうね。普段はそんなこと言われないから、気持ちいいんだと思いますよ。いわゆるジジイキラー(笑)」

――本にもありますが、芸者さんと遊ぶのは、それほど高くないんですね。

「玉代(呼ぶのにかかるお金)が、だいたい1時間1万円。2時間で4人で呼べば、1人5000円ですよ。料亭が『おでん割烹ひで』(今も残る料亭)で8000円からだから、それほどお高い遊びじゃないんですよ」

花街で繰り広げられた男のと女の秘密とは……
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