深層 4 事件を機に警察の捜査能力が大進歩

長い間不遇を受けてきた人たちのルサンチマンに、大企業の闇資金。一方、それに迫りながらも、もう一歩のところで逮捕できない警察、その背景にある無言の圧力……。北芝氏が言った"深い闇"とは、まさに、このことだったのだ。
「一見、アメリカ映画に出てきそうなくらい、ド派手な劇場型犯罪ですが、実は日本のダークサイドが浮き彫りになった、実に陰湿な事件だったんじゃないかと思います。犯行も陰湿なら、捜査側も陰湿な部分を持っていたんです」

戦後日本が長く抱えてきた闇が未解決の原因だとすれば、社会全体の膿みを浮き彫りにした事件とも言えるだろう。社会が変わらなければ、事件は永遠に解決しないのだ。
「でも、この事件で少なくとも警察は大きく変わりましたよ。皮肉な言い方ですが、いい教訓になっている。まず、広域捜査のやり方が変わりました。都道府県警同士の連絡不行き届きは解消されつつありますし、変な縄張り意識も薄れてきています。それに無線も大幅に整備されました。日本の警察は、いまやFBIも評価するほどのコミュニケーション能力です」

さらには鑑識をはじめとする科学捜査の進歩も、これを機に向上したという。
「この事件では、大量の物証があったんですが、つぶしきれずに難航しました。大量消費社会が訪れたばかりの頃ですから、当時の警察も困惑したでしょう。でも、これ以降、科学捜査は飛躍的に進歩しました。いまなら、そこから犯人の特定もできたんじゃないかな。物証が決定的なら、目星をつけた人間を見過ごすこともなかったでしょうね」

だが、警察の捜査能力の向上だけが問題ではない。社会の構造自体を改善していかなければ、こういった事件は繰り返されるだろう。誰もが住みよい環境にし、クリーンな社会を作って、第2のグリコ・森永事件を起こさないことが重要なのだ。それこそが、真の「解決」への糸口なのかもしれない――。

監修/北芝健


北芝健(きたしば・けん)
警視庁の元刑事。捜査一課特捜本部(一課外捜査員)、公安外事警察捜査員を歴任し、退職後は漫画原作者、作家、空手家、犯罪学者として活躍。近著に『刑事捜査バイブル』(双葉社)、『誰も知らない暴力団の経営学』(日本文芸社)、『20歳若返る美肌のつくり方』(ロングセラーズ)など多数。



『未解決事件の現場を歩く 激動の昭和篇』¥833(税別)双葉社

封印された「タブー」の真相を独自のプロファイリングで徹底検証。
科学の時代となった現在、いまだ謎残る惨劇の舞台を訪れてはじめて解き明かされる昭和の暗部、そして真犯人――。




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