その過去ゆえか、北朝鮮事情に詳しいジャーナリストの惠谷治氏によると、「金正男氏が平壌に帰ることはない。つまり、彼自身、父親の後を継ぐ意思はないと思いますよ」と言う。実際、正男氏は北朝鮮の後継者問題が浮上する前からマカオを拠点にしていたが、一時、平壌に戻り、正恩氏に祝意を述べたといわれる。北朝鮮の新たな指導者に就任した弟に頭を垂れた格好だ。

「正男氏は、自身のビジネス(口利きや投資など)の他、北朝鮮本国から支給される“王子手当”、さらに北朝鮮から運用を任されたファンドの“上がり”の一部を収入にしていました。ところが、張氏の粛清以来、ファンド運用の仕事がなくなり、“王子手当”も、弟(正恩氏)の決済に移ってしまった。こうして正男氏は、今まで以上に平壌の顔色をうかがうようになったのです」(井野氏)

 これで経済的にも追い込まれたはずだが、意外や意外、こんな情報もある。「正男氏がマカオのマンションに住んでいたのは有名ですが、同じマカオ市内の戸建てへ引っ越したというんです。別名義で入居していますが、ヨーロッパ留学中の子息が往来していたことなどから、確認されている話です」(マカオ情報筋)

 そのマカオは言うまでもなく、中国の特別行政区。「正男氏には北朝鮮の監視の目が光っている」(井野氏)とされる一方で、「北京もなんらかの名目で正男氏に金銭的な援助を行っているはず」(惠谷氏)という。つまり、母国から中国へ、正男氏のスポンサーが切り替わった可能性があるというのだ。そうなると、正男氏の意思がどうあれ、おのずと行く末は見えてくる。「北朝鮮の政権内部に、正男氏とのコネクションを持つ親中派がいるのは事実。したがって中国としては、軍事クーデターや反乱などで長期化するのを避けるべく、彼らと連携し、今の北朝鮮指導層の一部をそっくりすげ替える“宮廷内クーデター”が理想的なシナリオなのです」(井野氏)

 一方の正恩氏は「親中派の張一派の残党狩りを続行させると同時に、毒見役を二重三重にし、近づく人間へのチェックを厳重にしているといわれます」(同) やりたい放題の若造が触れてしまった巨獣の逆鱗。中国を怒らせたツケが、どう表れるのか、注目したい。

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