「無類の読書家で、オールバックにチェリーをくゆらすのがトレードマークでした。記者に禁煙を勧められても、“一度始めたことを止めるほど、意志薄弱ではない”と啖呵を切る人でしたね」(前出の浅川氏)

 短気ぶりも有名で、官僚を怒鳴り散らすのは日常茶飯事だったとか。加藤紘一氏らが野党の内閣不信任案に同調した「加藤の乱」の際は、「あいつには、熱いフライパンの上で猫踊りさせてやる」と激怒したという。「ただ女性にはとても優しく、私が取材した銀座の愛人は、“公務で海外に行くと必ず現地から電話があって、お土産は何がいいか聞いてくる”と話していました(笑)」(浅川氏)

 そんな橋本元首相と最も仲が良かったのが、小渕恵三氏だ。浅川氏が続ける。「“ブッチフォン”で知られるように、かなりの電話魔でしたね。1日に数回かかってくることもありましたが、必ず“官邸の小渕です”で始まりました。続けて“先生、夕刊フジのコメント読みましたよ。いやぁ~手厳しいですな。ありがたく受け止めさせてもらいます”という具合。こうしたやり取りを通じて相手を牽制しているわけで、場の空気を壊さず主張を伝えるのが上手でしたね」

 一方で、政治家としての凄味も持ち合わせていた。「政敵には厳しく接し、総裁選で争った加藤紘一氏が、小渕さんの組閣にクレームの電話を入れてくると、“あんたは俺を追い落とそうとしたじゃないか。政治とはそういうものだ”と冷徹に突き放しています。“人柄の小渕”とは宣伝のために言っていただけで、実際はしたたかな人でした。でなければ、群馬3区で中曽根康弘、福田赳夫両元首相と長年争って当選できませんよ」(前出のデスク)

 小渕氏以降でその人柄が特筆されるのは、「自民党をぶっ壊す」と言って首相になった小泉純一郎氏だ。彼が政治生命を賭けた政策が郵政民営化法案だった。

「法案を断念するよう説得するために武部勤幹事長、安倍幹事長代理が官邸を訪れると、執務室にはクラシック音楽が大音量でかかっており、涙を流した小泉さんが座っていたそうです。あっけにとられる両氏を前に彼は、“オレは、この法案が通れば殺されてもいいんだ”と言うや“衆院を解散する”と宣言。郵政解散となったわけです」(前同)

 この小泉元首相は、現在ブームの角栄元首相とは好対照な政治家だという。「角さんは叩き上げで、小泉さんは世襲政治家。角さんは金集めに腐心したけど、小泉さんは自分の選挙資金以外の金集めはしなかった。角さんはロッキード事件後も再登板を目指し権力に執着したが、小泉さんは引退してオペラと歌舞伎を楽しむ生活。本当に対照的ですよ」(前出の浅川氏)

 様々な個性に彩られた宰相の世界。“総理もいろいろ”である――。

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