音楽で食っていこうと、21歳で上京した時も親からは、“歌で売れるわけがないだろう”って散々言われましたよ。僕の生まれは福岡県の大川という家具の街で、曾祖父から3代続く職人の家庭でしたから、親父も継いでほしかったのかもしれません。その反対を押し切って芸能界に飛び込んだんですよ。

 それで、役者として名前がある程度売れた時に、実家に女房の母を連れて帰ったら、うちの親父が、“この子が生まれた時に有名な役者になる夢を見ましてね”なんて言うんです。ウソつけ。聞いたこと一度もありませんでしたよ(笑)。

 でも、“こんなの無理だろう”って思われているものが、当たった時こそ、痛快なんですよね。だから、今回監督をさせてもらった映画『幸福のアリバイ』も、マイナス要素だらけ。今の映画界は原作つきが主流ですけど、今作はオリジナル作品ですし、当たらないと言われるオムニバス形式ですからね。

 何より、中井貴一さんやギバちゃん(柳葉敏郎)が出ているのに、主役的扱いが、山崎樹範ですからね(笑)。もちろん、彼の役者としての実力は申し分ないですけどね。彼が主演の映画なんて“当たるわけがないだろう”って思うでしょう(笑)?

 だからこそ、当てる意味があると思うんですよね。周囲からは、“当たんねーよ”って陰口叩かれるかもしれませんが、まさに“恥をかいて意地を掴む”ですよ。この言葉を肝に銘じて、これから役者としても、映画監督としてもやっていきたいなと思っています。

撮影/弦巻 勝

陣内孝則 じんない・たかのり
1958年8月12日、福岡県生まれ。80年にバンド『ザ・ロッカーズ』のボーカルとしてデビュー。その後役者に転身し、86年のドラマ『ライスカレー』で注目され、87年、映画『ちょうちん』でブルーリボン賞・主演男優賞など数々の賞を受賞する。03年には『ロッカーズ』で長編映画監督としてデビュー。07年には『スマイル~聖夜の奇跡~』が公開された。陣内氏が9年ぶりに監督を務めた映画『幸福のアリバイ~Picture~』は11月18日(金)より全国ロードショー。

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