また、人民解放軍で進む世代交代も、北朝鮮には不利に働いているという。「人民解放軍では、北朝鮮への援護を主張する長老派が存在感を発揮していました。ただ、そうした人材も少なくなっているのが実情です」(前出の重村氏)

 パイプ役であった張成沢氏の処刑、上海閥の凋落、人民解放軍の改編……中国における北朝鮮シンパの数は激減の一途をたどっているというのだ。そうした文脈の中で起きたのが、中国が匿っていた金正男氏の暗殺事件だったわけだ。ただ、この暗殺劇は“起こるべくして起こった”と見る向きもある。

 中国事情に精通した評論家の宮﨑正弘氏が言う。「正男氏は5年もの間、命を狙われていましたが、中国はマカオ以外では警護の手を緩めていた節があるように思います」

 一部では、「中国に配慮して、マカオでの殺害は控えていた」と報じられているが、中国側にも北朝鮮側を“信頼”して、その“忠誠心”を試していた部分があったのではないだろうか。そして、その期待は完全に裏切られる格好となった。

「中国は昨年、北朝鮮に対する国連の制裁決議に初めて賛成しています。さらには、高官をモスクワに派遣して、ロシアに制裁に賛成するよう説得したほどてす。これ以降、中国の対北方針は変わったと見るべきですね」(重村氏)

 実は金正男氏が暗殺される前から、中国は対北方針を変更していたのである。「暗殺事件が起きた6日後の2月19日から、中国は北朝鮮産石炭の輸入も凍結しています。期限は今年いっぱいですが、その間、北朝鮮側が態度を改めなければ、来年も制裁を継続するはずです」(前同)

 一方で、食料と原油の提供は継続している。「原油は日に50万トン。ロシアからも日に20万トン入ります」(同)

 ただ、北朝鮮が核開発を中止しなければ、中国が原油の提供をストップする可能性もあるという。さらに、中国側には北朝鮮に対して実力行使に出ざるをえない状況があるようだ。

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