元関脇琴錦の朝日山親方
元関脇琴錦の朝日山親方

「史上最強の関脇」と称された、元琴錦の朝日山親方。豊富な取材と人脈、鋭い洞察力で、熱戦続く名古屋場所を大胆予測してもらった。(取材・文/武田葉月 ノンフィクションライター)

――夏場所後、関脇・栃ノ心(30)が大関に昇進。「新大関で優勝!」との声も上がっていますね!

朝日山(以下、朝)ありえるんじゃないでしょうか? 大関昇進の目安は、直前3場所の成績が33勝以上なんですが、栃ノ心の場合は37勝している。初場所、14勝1敗で初優勝してから、ノリに乗っています。2度目の優勝を果たせば、一気に横綱への道を切り開くことも可能。ここで重要なのは、「大関に昇進した」ことに安心しないことですね。

――「勢いも味方につけろ!」ということですね。

朝 その通り。優勝31回の大横綱・千代の富士関は、昭和56年初場所、関脇で初優勝。翌春場所に大関昇進して、その年の秋場所では横綱になった。つまり、1年で関脇から横綱にジャンプアップしたわけです。今の栃ノ心なら、その可能性もありじゃないかと。

 一方、先場所4回目の優勝を果たした鶴竜(32)、優勝40回の白鵬の両横綱も場所前、元気に稽古をしていました。白鵬は4月の春巡業中には、モンゴルの大英雄でもある親父さん(ムンフバトさん)を亡くして、失意のどん底にいた。そんな中で迎えた夏場所、序盤戦は気持ちが乗っていかなかったものの、「中盤からスイッチが入った」そうなんです。12日目の全勝の栃ノ心との一番は、自分のケガの回復具合を占う意味でも大切な相撲。結果的にはがっぷり四つに組んで力負けしてしまったけれど、「まだ、やれる! という手応えをつかんだ」と、私に話してくれました。また、鶴竜は優勝回数を重ねて自信をつけてきました。ただ、相手力士を引いてしまう悪いクセがあって、相撲が雑な一面がある。5日目までに波に乗れるかに、かかっているでしょう。

――彼らが優勝争いの中心になりそうですが、それに割って入りそうな力士は?

朝 大関・高安(28)、豪栄道(32)には、頑張ってほしいんですけどね。栃ノ心の話に戻りますが、四つに組んだときの彼の地力はものすごい。白鵬も白旗を上げたほどですから。ただ、今のままだと相撲のパターンが少ない。突っ張りを利用しながら、離れて取る相撲を身につけたほうがいいでしょうね。そういう意味ではケンカ四つで、突き押し相撲を得意とする高安との対戦が、栃ノ心が今後飛躍するか否かのカギとなる。

 そして、「大関候補」の御嶽海(25)、逸ノ城(25)の両関脇ね。御嶽海は昨年から関脇に定着しましたが、気持ちが「守り」に入り、勝ち越すのがやっとの状態が続いています。本来、押し相撲なのに二本差しに行ってみたり、相撲に迷いもある。あまり稽古が好きじゃない点も気になるなぁ。その点、逸ノ城は一門の横綱・鶴竜とふだんから稽古したり、稽古相手に恵まれています。ただ、気持ちの優しい子だから、一つつまずくと、連敗するのが難点。「太り過ぎ」を指摘されてのダイエットも成功したのか、してないのか(笑)。

――両関脇は炭水化物ダイエットを実践して、体調がいいという話もあります。

朝 エッ? 炭水化物ダイエットなんかやってるの? それは力士にとって、どうなんだろう? ヘトヘトになるまで稽古をすると、普通、昼のチャンコなんか口に入っていかないもの。私と同じ時代に活躍した200キロ超えの小錦関だって、稽古量を増やすことで体重を落としていましたよ。本来なら、食べて稽古をして力士の体を作るんですが、今は圧倒的に稽古量が不足している。さらに、全体的に骨も細いからケガしやすいし、これじゃあ「ブロイラー力士」なんて言われても仕方ないかもしれないね。

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