乃木坂46白石麻衣
乃木坂46白石麻衣

乃木坂46「個人PVという実験場」

第7回 乃木坂46を象徴する人物だった白石麻衣の個人PV史 4/4

■『じゃあね。』MV監督を務めた湯浅弘章作品の特質とは?

 前回更新分まで、白石麻衣の個人PVをさかのぼることでうかがえたのは、白石の卓越したアイコン性をキーにして、有名性をもつことで否応なく背負い込むことになるネガティブさにスポットをあててみせるような、いくつもの映像の存在である。

 そしてまたキャリアのごく初期には、ポップアイコンとしての著名さを手にする以前の彼女やグループの置かれた立場が、やはり個人PVのうちに記録されてもいた。必ずしも観る者を心地よくさせるわけではない作品群を含めて、今日それらを充実した活動の歴史として振り返ることができるのは、白石や乃木坂46が総体としてきわめて順調な歩みを残してきたためである。

 その白石の乃木坂46でのキャリアを振り返る、締めくくりの楽曲として制作されたのが、25枚目シングル『しあわせの保護色』に収録された、白石自身の作詞によるソロ楽曲『じゃあね。』だった。この楽曲のMVは、これまでも乃木坂46の個人PVやMVで秀逸なドラマ作品を演出し、グループの演技志向の一翼を担ってきた湯浅弘章が監督を務めている。

https://www.youtube.com/watch?v=gGIFpMkcx_s
(乃木坂46「じゃあね。」MV)

 今年2~3月の本連載で取り上げてきたように、乃木坂46の映像作品で湯浅弘章が表現してきたのは、時間のうつろいが喚起する哀感や郷愁、あるいは限られた時間のうちにこそ宿る尊さだった。物語のなかに喪失や再生、邂逅といったテーマを忍ばせながら、湯浅は長年にわたって乃木坂46のフィルモグラフィーを支えてきた。

 その湯浅は時折、メンバーがグループ内で置かれている立場を踏まえてMV内にドラマを描いている。『あの日 僕は咄嗟に嘘をついた』MVやその後日譚としてのショートムービー『行くあてのない僕たち』は、メインキャストを務める伊藤万理華や井上小百合の、その時点でのグループにおける足場と同期する物語だった(/articles/-/72364)。

 ただし、現実にメンバーが置かれた立場を踏まえながらも湯浅は、MVのなかではあくまで虚構の物語へとそれらを昇華してみせる。『あの日 僕は咄嗟に嘘をついた』も『行くあてのない僕たち』も、伊藤や井上の現実での境遇を参照しながらも、あくまでフィクションのストーリーの演技者であることを二人に求めていた。

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