桜井玲香&衛藤美彩「2人のミュージカルヒロイン」が見せた「早熟」のポテンシャル【乃木坂46「個人PVという実験場」第12回 1/4】の画像
※画像は本サイトの記事(https://taishu.jp/articles/-/59801)より抜粋

乃木坂46「個人PVという実験場」

第12回 今泉力哉作品が描く他者との関係性の築き方 1/4

■一対一の相思相愛以外の「恋愛」関係

 近年、『愛がなんだ』(2019年)や『his』(2020年)などの作品で、さらに注目度を高めている映画監督・今泉力哉。彼は乃木坂46の10枚目シングル『何度目の青空か?』(2014年)で個人PVの監督に招聘されて以降、たびたび個人PV/ペアPVにおいて深い余韻を残すショートドラマを生み出してきた。

 今泉の映画では、「恋愛」の範疇にあるさまざまな関係性が描かれる。もっとも、そこに息づく人々は、必ずしも一対一の相思相愛関係へと向かってゆく者たちではない。たとえば今泉作品には時折、浮気をする人物、もしくはパートナー以外を好きになる人物が登場するが、浮気の発覚は関係の破綻という「正しい」帰結をもたらさない。

 ときに相手の浮気を知っていても従前の関係を継続しようとし、浮気をしている側もまた、強い衝動や情熱に駆られての複数の人々と関わりをもつというよりは、置かれた状況を維持するために淡々と現状を受け入れるような趣がある。

 一見すればそれらキャラクターたちは、対峙する相手への熱量が低い人々にもみえる。しかし、登場人物たちが相互の間にわかりやすい落とし所や関係性の明白な可視化を求めようとしないことは、他者との距離について冷淡であることを意味しない。

 ときにあえて積極的に胸の内を言葉にすることなく現状を守り、またときに表面的に見れば自分を裏切ったはずの相手を肯定し続けるような、かたくなな振る舞いをみせる。登場人物たちのそうした行動は執着の薄さではなく、むしろ相手の気持ちを尊重する意思のあらわれであったり、あるいは他者と繋がり続けたいための切実さであったりする。いわばそれぞれの登場人物たち特有の誠実さが発露する瞬間であり、また俯瞰してみれば、それはありがちな「正しさ」への問い返しとしての意義ももつ。

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