このとき、レッスン着姿のメンバーたちが参加するエチュードには、サポート的に5名の俳優が加わっている。ベテランたちが居並ぶその中で、最も若年の俳優として助演しているのが、池松壮亮だった。

 池松が『映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ』(2017年、監督:石井裕也)や、『宮本から君へ』(2018~2019年、監督:真利子哲也)などに主演するのは後年のことだが、「君の名は希望」当時の池松もすでに数多くの映画やドラマで場数を踏み、豊かなキャリアを持つ若手俳優の一人であった。

 今日から同MVを振り返れば華やかな共演とも映るが、乃木坂46がまだ俳優を育む組織として、あるいは多人数グループとして模索期にあった当時のこの両者のバランスを、現在の地点から推し量ることはもはやいささか困難になっている。

■サポートする俳優のシームレスな変化

 もっとも、池松を含む俳優陣は、それぞれに自身のカラーを強く出すのではなく、あくまで脇をサポートし、エチュードを方向づける役割にとどまっている。この独特のMVの本体は、あくまで乃木坂46メンバーたちのワークショップ的な風景である。

 山下の過去作品のワンシーンをメンバーが代わる代わる演じるさまからは、個々人ごとに演技のアプローチや場面解釈の差異が浮かび上がり、またエチュード進行中には、演者の耳元でそのつど動きを指示していく山下特有の演出スタイルが映し出される。乃木坂46が演者としてビルドアップされていく過程のほんの一コマが、このMVにはパッケージされていた。

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