関西に生息するアヤシくてオモロい人たちに、大阪出身・京都在住の人気ライター・吉村智樹が直撃インタビュー!
■伝説の芸人・ミヤコ蝶々の元で歌や芝居を学び人気演歌歌手に
通天閣がそびえ立つ新世界は、かつては「演歌が似合う街」だった。
「演歌祭り」でにぎわった新花月や、「演歌の殿堂」と呼ばれた通天閣歌謡劇場など、演歌歌手が輝ける小屋が多かったのだ。しかし、近年は街の雰囲気が様変わり。おしゃれなカフェが現れ、観光客もグッと若返った。演歌専門だった劇場は、現在はアイドルがライブを行っている。
「新世界から演歌が聴こえなくなったら寂しいです。演歌の灯を消したくないですね」
こう語るのは、「通天閣のおやゆび姫」の愛称で親しまれ、新世界を拠点に歌い続ける吉野悦世さん。『だ~い好っきゃねん通天閣』『Around TheNew World ~新世界巡り~』など、ご当地演歌を持ち歌としている人気歌手だ。
NHK連続テレビ小説『おちょやん』で小林きみ役を演じるなど、俳優としても活躍するマルチプレーヤーなのである。
彼女が演歌に心ひかれたのは幼少期。大好きな祖父に連れられカラオケ喫茶へ通ううちに、着物姿で歌う女流演歌歌手を「カッコいい」と憧れるようになった。
当時、放送していた人気テレビ番組『素人名人会』をはじめ、5歳から数々のオーディション番組を受けまくり、ちびっこ歌手として早くも頭角を現した。
6歳になり、「歌の感情表現のために」と、故・ミヤコ蝶々が開いていた養成学校に通う。そこで、本物の舞台人のすごさを目の当たりにしたという。
「当時の私にとって、蝶々先生は祖母にあたる世代でしたが、誰よりもパワフルで若々しかった。一年のうち9か月も舞台に上がり、人情喜劇でお客様を笑わせ、泣かせていました。“なんて、すごい人なんだ!”と感動し、気持ちが引き締まりましたね」
■酔客からの野次もいつしか声援に…
蝶々のもとで歌や芝居などを学び、ひたむきに稽古を重ねながら、ついに舞台で役を与えられるまでに成長。ところが、蝶々が病に倒れ、興行は休止を余儀なくされた。
居場所を失った彼女は18歳のとき、縁あって、ある街の小屋へと流れつく。それが、新世界。今はなき通天閣歌謡劇場だ。
「現在と違って、当時は街の雰囲気が殺伐としていて、未成年の私にはとても怖かった。歌っていても、酔ったおっちゃんから“へたくそ!”とヤジられた日もありました。けれども、うまく歌えるようになるにつれ、次第に声援を送ってくださるようになったんです。蝶々先生と新世界が、私を鍛えてくれた人生の師匠です」
身長が149センチと低いことから、「おやゆび姫」と呼ばれるようになった彼女。現在は演歌を堪能できる数少ない劇場「シアター朝日」を中心に歌っている。彼女の歌声が街に響く限り、新世界から演歌はなくならない。
グッドラック! 親指を立てて応援したくなる。
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