数あるレースの中で、唯一、その年の日本ダービーを制した騎手だけに許された呼称、それが、“ダービージョッキー”です。
栗東トレセンで、競馬場で、「おめでとう」の次に続く、この“ダービージョッキー”という言葉を聞くたびに、改めて、大きな仕事を成し遂げた喜びが湧いてきます。でも、今年は、もう一つ、そのあと、さらに続く言葉があって。
――次は、凱旋門賞だね。みんなの口から出るこの言葉に、日本競馬への思いと、熱い期待を感じます。
1969年のスピードシンボリから始まり、数多くの日本馬が、ヨーロッパの高い壁に跳ね返されてきました。エルコンドルパサー、ナカヤマフェスタ、オルフェーヴル……あと一歩のところまで迫りながら、どうしても、その一歩が届かない。だからこそ、勝ちたいと思うし、日本競馬の悲願にもなっています。
――なぜ、勝てないのか? ヨーロッパの重い馬場への対応力や環境の違いなど、理由はそれぞれですが、負けても、負けても、挑戦し続けてきたことで、ノウハウが確実に積み上げられ、磨かれてきています。
長距離輸送の技術も格段に上がり、長旅の疲れというマイナスは、ほとんど考慮に入れなくても大丈夫になってきているし、日本馬の力も確実にアップしています。
その日は近い――。ジョッキーも、調教師の先生も、日本競馬に携わるすべての人が、それを感じているのではないでしょうか。
だからこそ、チャンピオンホース、ドウデュースで挑戦できる今年は、最大のチャンスだと思っています。
いつ、放牧中のノーザンファームしがらきから帰厩させるのか。いつ、フランスに向かうのかなど、細かいことは何も決まっていませんが、先日、友道先生と話をして、前哨戦は使わず、ぶっつけで行こうという方向で進んでいます。
デビュー7年目の1994年に、ホワイトマズルで初挑戦してから9度……。ディープインパクトで挑戦した凱旋門賞は、今でも、ときどき夢に見るほどの悔しさを味わいました。
もう、そろそろ……。今度こそ。千載一遇のチャンス――言い表す言葉は違いますが、どれも正直な気持ちです。
10月2日の本番まで、残り4か月弱。人馬ともに最高の状態で挑みたいと思います。
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