関西に生息するアヤシくてオモロい人たちに、大阪出身・京都在住の人気ライター・吉村智樹が直撃インタビュー!
■廃棄寸前のアナログレコードが新しい生活用品に生まれ変わる
大阪で工房を構えるトムツジモトさん(42)の肩書は「レコード曲げ屋」。傷がついて再生が不可能となり、廃棄処分される寸前だったアナログレコードを引き取り、手で曲げて別の製品にする。おそらく日本で唯一の職業だ。
「13年前にレコード曲げ屋を始め、ひたすらレコードを曲げ続けて今日まで生きてきました。これまで何枚のレコードを曲げたのか、もう、見当もつきません」
2009年にレコード曲げ屋『ストレンジストレッチレコーズ』を起業したトムさん。彼が制作する製品は、掛け時計、ティッシュカバーやキャッシュトレイ、ランプシェードなど生活用品ばかり。レーベルや曲名が印刷されたラベル部分をしっかり生かし、レコードの質感をうまく残している。
「聴けなくなったレコードを、もう一度、暮らしの中に戻したくて実用化しております。ですから、どんどん使ってほしい」
アップサイクル(廃棄物の創造的再利用)は現代社会の大きなテーマ。トムさんの仕事は、まさに時代の先駆けと言える。とはいえ、いったい、なぜ素材にレコードを選んだのか。
「レコード曲げ屋を始める以前は、古物を売るガラクタ屋を営んでいました。その仕事を通じて、レコードが大量に捨てられている現実を知ったんです。音楽が好きだったので、レコードがゴミにされるのを、しのびなく思いまして」
■想い出のレコードに新たな命を吹き込む
『ブランキー・ジェット・シティ』に影響を受け、ロックバンドでドラムを叩いていた彼。産業廃棄物扱いとなったレコードを救出し、雑貨に作り変えて再び命を吹き込もうと考えた。しかし、レコードの「曲げ方」が分からない。
「初期はレコードを電子レンジに入れて加熱し、アツアツの状態を手で曲げていました。しかし、そうすると、手がやけどだらけになってしまうんです。その後、塩化ビニール管の曲げ加工やシールはがしなどに使う工業用ドライヤーと出合い、なんとか制作できるようになりました」
そんなトムさんは、オリジナル製品のみならず、オーダーメイドも受けつけている。
「思い出がいっぱいで捨てられないレコードを“ジャケットを立てるスタンドに加工してほしい”など、さまざまな依頼があります。レコードは一度でも熱を入れてしまうと、元の水平には戻せない。なので、緊張がハンパじゃないです。だからこそ、完成品を手にしたお客さんが、涙を流さんばかりに喜んでくれている姿を見ると、“レコード曲げ屋をやっていて、よかった”と僕も感激する。続けていかなければならない仕事だと思います」
ひたむきにレコードを曲げ続けてきたトムさん。レコードは曲げても、志はまっすぐだ。