競馬を愛し、世界中から愛されたエリザベス女王がお亡くなりになりました。
僕が、この訃報を耳にしたのはドウデュースとのコンビで、ニエル賞に挑むために渡仏していたときです。
エリザベス女王のことで記憶に新しいのは、在位70年をお祝いする『プラチナジュビリーセントラルウィークエンド』の一環として行われた、今年のイギリス・ダービーウィーク(6月2~5日)でのこと。
女王の所有馬に騎乗経験のあるジョッキー40人が集合。紫を基調とした女王の勝負服を身にまとい、晴れやかな顔で記念写真に収まっていました。
その顔ぶれがまた、すごくて……。フランキー(L・デットーリ)を筆頭に、1980年代、女王の主戦騎手として活躍していたS・コーセン、K・ファロン、H・ドイル、J・ムルタ……といったスターたちが集い、みんな、キラキラと目を輝かせていたのが強く印象に残っています。
僕は女王の勝負服に袖を通すことはかないませんでしたが、女王のお姿を、イギリス遠征中に間近で拝見したことがあります。
毎年6月に開催される、イギリス王室主催のロイヤルアスコット。この開催期間中、女王は滞在しているウィンザー城からアスコット競馬場まで、馬車に乗って臨場します。
静かなほほ笑みを浮かべながら、勝利したジョッキーにお言葉をかけてくださったり、ときにはパドックにも足をお運びになり、まぶしそうな目で馬を見つめていらっしゃいました。
競馬ファンの方はご存じだと思いますが、エリザベス女王は、馬のオーナーであると同時に、馬の生産者でもあります。
現在、世界で一番強い馬と評される10戦無敗のバーイードも、エリザベス女王が、生産・所有されていたハイクレアという牝馬の血を受け継いでいます。
さらに、女王陛下のご希望で、所有していた繁殖牝馬ディプロマを日本に送り、ディープインパクトと交配。日本で生まれたポートフォリアをはじめ、数頭のディープ産駒を所有されていると伺っています。
11月13日に開催予定のエリザベス女王杯は、当初、「エリザベス女王即位70周年記念」という副題が付与されていましたが、ご逝去に伴い、副題は取り止め。半旗の掲揚が行われることになりました。
SNS上では、「どうなるんだろう?」「名前は絶対に残してほしい」といった来年以降の同レース開催を心配する声であふれ、一時、「エリザベス女王杯」というワードが、トレンド入りしたというニュースも耳にしました。
今、この時点では、どうなるか分かりませんが、でも、僕らジョッキーにできるのは、一つだけです。ウィンザー城で永い眠りについたエリザベス女王に、喜んでいただけるような競馬をすること――。思いは、みんな同じです。
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