兄弟子・河内(洋)さん(現調教師)に、日本ダービーという、でっかい勲章をプレゼントしたアグネスフライトが、天国に旅立ちました。
父はサンデーサイレンスで、母は桜花賞馬のアグネスフローラ。祖母がオークスを制したアグネスレディーで、弟は皐月賞馬アグネスタキオンという、日本の競馬史にその名を刻み込んだ華麗なる一族です。
アグネスフライトで思い出すのは、やっぱり、2000年の日本ダービーです。
その2年前、スペシャルウィークで初戴冠。前年は、アドマイヤベガでダービー連覇を果たし、僕にとっては3連覇という夢に向かっての大一番。一方、この年、45歳になっていた鞍上の河内さんにとっては、騎手人生のすべてを賭けたといっても大げさではないレースでした。
最後の直線、残り400メートル――。先に抜け出したのは、後方14番手を進んでいた僕と皐月賞馬エアシャカールです。
過去2年でのレースと同じ、震えるような手応えを感じていた僕は、「勝った!」と思ったほどです。
不気味な脚音に、背中がゾクリとしたのは、次の瞬間でした。
残り50メートルで外から並ばれ、馬体をぶつけ合うような激しいデッドヒート。エアシャカールはもちろん、アグネスフライトと河内さんの息遣いさえも感じられるような激闘でした。
ほぼ同時にゴールに飛び込み、写真判定の結果、勝ったのはアグネスフライトと河内さん。その差は、わずか7センチでした。
あのときの悔しさは、今振り返っても、歯噛みしたくなるほどです。でも、同時に、スタンドを埋め尽くした16万人の“河内コール”を聞きながら、うれしさも込み上げていました。
トレセンや競馬場で常に、河内さんの背中を追いかけ、騎乗技術はもちろん、騎手としての心構えや日常生活、おいしいお店まで教えてくれた兄弟子の晴れ姿です。
悔しいけど、うれしい。うれしいけど……やっぱり、悔しい。
微妙に揺れる気持ちを持て余しそうになりながら、表彰式を見ていたのを思い出します(苦笑)。
さぁ、それでは、今週末の騎乗馬です。1月15日までの6日間で挙げた今年の勝ち星は6つ。年間100勝を超えるペースで来ていますが、このあたりで貯金を増やしたいところです。
メインレースは、29日東京競馬場で行われるG3根岸ステークス。コンビを組むのはヘリオスです。
前走、交流G1・JBCスプリントは3着。前々走交流G1マイルCS南部杯が2着。あと一歩まで来ているのに、その一歩が遠いという惜しいレースが続いていますが、今度こそ! という強い気持ちで挑みたいと思っています。
目指すは、初重賞制覇。その後に控えるG1フェブラリーSも見据えた、内容と結果が伴うレースにしたいと思います。期待してください。
「武豊 人生に役立つ勝負師の作法」最新記事