ホースマンにとって、1年で一番ワクワクする1週間、ダービーウィークが終わりました。ダービーに出走する馬を持つ陣営は、どこか誇らしげで、その他の厩舎は、“来年こそ”と新たな誓いを立てる1週間です。
ダービー前日の土曜日。僕らジョッキーにとっては、昂ぶる気持ちを抑えながら、目の前のレースに集中する1日になります。
この日、僕は幸先よく、メイショウクモイで京都1レースを勝ち、メインのG3・葵Sをモズメイメイで快勝。ゲートが開くと同時に見せたモズメイメイのロケットスタートに、ツイッターなどでは、「速すぎる。フライングでは?」という書き込みがあったようですが、大丈夫です。審議にはなりませんでした(笑)。
さらに、最終12Rをメイショウベッピンで勝ち、1日で3勝。気持ちよく東上することができました。
そして、いよいよ1年で一番熱い1日、東京優駿、日本ダービーです。
コロナ禍を乗り越え、東京競馬場に足を運んでくださったお客さんの数は、7万1868人。9時40分スタートの1Rからスタンドはお祭りムードで、4R終了後に行われたダービージョッキーの紹介では、たくさんの拍手と歓声をいただきました。背中を押してくださる皆さんの熱い声には、感謝しかありません。
高らかに鳴り響くファンファーレの後に沸き起こる大歓声と一瞬の静寂。心地良いプレッシャーと、痺れるような緊張感――。第90回日本ダービーは、ペースを握ると思われていた昨年の2歳王者、ドゥラエレーデに騎乗した坂井瑠星騎手が落馬するという、まさかの展開でスタートしました。
力と運。そのどちらかが欠けても頂点に上り詰めることは難しいのが、この日本ダービーです。そういう意味では、スタートで、わずかに後手を踏んでしまった僕とファントムシームには、運が味方してくれなかったのかもしれません。
ペースが思うように上がっていかなかったのも、その一つ。向こう正面で少し位置を押し上げましたが、ここで無理をしてしまうと、最後の脚に影響が出るため、思い切って、飛び出すだけの勇気が足りませんでした。
レース後に残ったのは、悔しさと自分自身への不甲斐なさ。これを糧にまた、来年のダービーに向けて、精進することが僕に与えられた仕事です。
気分一新。今週末、6月10、11日は、今年初の開催となる函館競馬に参戦します。10日はエビちゃんこと蛯名正義厩舎のシャーンゴッセ。11日は、2歳新馬のグレイトフルペイン、メインの函館SSは、弟・武幸四郎厩舎のウォーターナビレラとコンビを結成する予定です。
その昔、鹿児島から開拓使として海を渡った武家にとって、函館はルーツの地。親戚もたくさんいますし、新たなスタートを切るには最高の環境です。武豊、此処に在り――皆さん、楽しみにしていてください。
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