「初めまして、双葉社『週刊大衆』と申します。ぜひウチの雑誌で、武さんの連載をお願いしたいと思っているんですが、いかがでしょうか?」
電話をいただいたのは、落馬骨折の影響で思うような成績が挙げられず、懸命に、もがいていた2012年の秋です。
――僕でいいのかな? 逡巡しましたが、これもご縁です。「僕でよければ」とお返事をして、この『勝負師の作法』をスタートさせていただくことになりました。
人と人、人と馬に相性があるように、もしかしたら、雑誌とも相性があるのかもしれません。
連載1か月半後には、サダムパテックで2年間、遠ざかっていたG1(マイルCS)のタイトルを奪取。この年の暮れにはキズナというパートナーに巡り合い、翌年の日本ダービーを制覇。振り返ると、武豊の復活ロードは、この連載コラムとともにあったような気がしています。
連載も今回が一つの大きな区切りとなる500回です。いつになるか分かりませんが、いつか、騎手生活にピリオドを打つその日まで、皆さんに競馬の面白さを伝えていければと思っていますので、改めて、よろしくお願いいたします。
前置きが長くなってしまいましたが、6月4日、競馬法100周年記念として行われた安田記念のことから、お話しましょう。
大阪杯でG1ホースの仲間入りを果たしたジャックドールにとっては、初めてのマイル戦。1、2コーナーでは少し力みかけましたが、馬自身がなんとか理解してくれ、4コーナーまでは、いいペースで運ぶことができました。
最後の最後に力尽きたのは、経験値の差。マイルのスペシャリストたちに一日の長があったということ。
――無謀な挑戦だった? 僕は、そうは思いません。今日の走りで、十分に戦えることは証明できたと思いますし、また、いつか、チャンスがあったら、マイルのG1に挑戦したいと思っています。
イギリスでは、ディープインパクトの最終世代となるオーギュストロダンが、英ダービーで優勝。日仏に続く3か国目のダービー馬の誕生です。主戦ジョッキーとしてディープのすべてのレースで手綱を取った僕も、負けてはいられません。
6月3日から、来年のクラシックを目指す2歳戦が早くもスタート。今週も、東京、阪神、函館で8つの新馬戦が組まれています。
――今年は、どんな馬に巡り合えるんだろう? 考えただけで、ワクワクが止まりません。17日の函館でデビューする庄野靖志厩舎の男の仔、アガシも、その1頭です。
父はエピファネイアで、母父はクロフネ。「これは、ひょっとして……」。彼には、テニス界のスーパースターだったアンドレ・アガシを彷彿とさせるような、そんなすごい走りを期待しています。
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