4年前の2019年7月30日――。札幌のクイーンSに出走したディープインパクト産駒のエイシンティンクルに騎乗後、たまたま北海道に残っていた僕のもとに、“英雄”ディープインパクトの訃報が届きました。
――あのディープが亡くなった……!? 体調が良くないというのは聞いていたので、心配はしていましたが、それにしても、まさかでした。
社台スタリオンに駆けつけたときには、すでに荼毘に付された後で、馬房の前で手を合わせることしかできませんでした。
あれから4年。海外では、彼のラストクロップとなる3歳馬オーギュストロダンが、イギリスとアイルランドのダービーを制覇。命日である30日に、僕は、運命の糸に導かれるように、同じく彼のラストクロップの1頭、3歳牝馬のライトクオンタムと、札幌で行われたクイーンSに参戦しました。
まるで小説や漫画の中にあるような話です。いや、小説でも漫画でもありえないような展開です。
勝つつもりで乗る――。この思いは、どのレースでも同じですが、いつもより少しだけ昂っていたような気がします。
ゲートを出てすぐ先頭に。これはレース前から考えていた作戦でした。
抽選で引き当てたのは、3枠3番。負担重量52キロの軽ハンデ。スタート次第になりますが、この2つを最大限生かすには、ハナに立ってレースを引っ張り、最後まで逃げ切る――というのが、最も有効だと考えていました。
そういう意味では、思っていた通りの展開でレースは進んだことになります。誤算は、直線を向いたときに、手応えが、いつもほどじゃなかったこと。もしかしたら、距離が少し長かったのかもしれません。
競馬の世界では、しばしば、“奇跡の勝利”とか、“神様のいたずら”とか、そういう言葉でしか言い表せないことが起きますが、最後に力尽き、厳しい現実を突きつけられる結果に終わるのもまた、競馬。気持ちを切り替え、次です。
8月20日は、今年の大阪杯を制したジャックドールとのコンビで、札幌記念から本格始動です。
大きなチャレンジとなった前走の安田記念は、マイルのスペシャリストたちを相手に、最後の最後で力尽きましたが、連覇がかかるここは、勝ち負けはもちろん、それ以上に内容の問われるレースになります。
最大目標である秋の天皇賞に向けて、人馬ともに、ここからリスタートです。
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