「まさに、電光石火の早業でした」

防衛省関係者が驚きの表情で話すのは、ロシアのプーチン大統領が見せたウクライナ南部・クリミア半島への侵攻からロシア併合に至る一連の動きについてだ。

発端は、ウクライナの"政変"にあった。
「親ロシア派のヤヌコビッチ大統領が、EUとの関係強化を放棄し、対露関係を重視する方針を決定。これに反発した反政府デモが相次ぎ、80人以上が死亡。そんな混乱のさなかの2月22日、議会はヤヌコビッチ大統領を解任する事態となりました」(通信社記者)

その6日後には、"自警団"と称するロシア軍がクリミア一帯に展開。
そのまま一気に制圧してしまった。

さらに、3月16日には、クリミアのロシア編入の是非を問う住民投票を、ロシア寄りの政権主導で実施。

ウクライナからの分離独立とロシア編入を圧倒的票差で可決させると、プーチン大統領は"独立"したクリミア政府とロシア編入条約に調印。

3月21日には、すべての手続きを終え、"クリミア編入大作戦"は見事に完了したのだ。

「事の良し悪しを脇に置けば、今回の作戦は見事としか言いようがない」(前出・防衛省関係者)とのことだが、圧倒的な軍事力で他国を侵食する19世紀的な帝国主義と、世界中が非難を浴びせることとなった。

「特に、"世界の警察官"を自認する米国のオバマ大統領は、"いかなる理由があっても、他国への軍事侵攻は許さない"と激怒。ロシアと米国・EU連合が対立する"新冷戦時代に突入か!?"と世界中が懸念しています」(軍事評論家)

というのも、プーチンの"野望"がクリミア半島の併合だけにとどまらない様子なのだ。

「今回の侵攻と同時進行で、欧米諸国を震え上がらせる"恫喝(どうかつ)"を行ったんです。これは、ロシアが次の目標を"世界制覇"にしたと言われても言い逃れできないものですよ」(前同)

その中でも象徴的なのが、クリミアでの軍事行動真っただ中の3月4日に強行した、最新型大陸間弾道ミサイルの発射実験だ。

軍事ライターの古是三春氏が言う。
「このミサイルは、通称トーポリといい、全長21メートルの三段式固形燃料ロケット。射程距離は1万3000メートルで、米国のほぼ全土を狙うことができます」

誤差が半径1キロ以内という抜群の精度に加え、「多弾道型と言って、4~8発の核弾頭を同時に積むことができるんです。欧米が誇るMD(ミサイル防衛システム)であっても、すべての弾頭を完全に迎撃できません」(前同)

ちなみにMDとは、弾道ミサイル攻撃から国土を守るため、飛来してくるミサイルをレーダー網でキャッチし、着弾前に撃ち落とすシステムのこと。

「欧米のMD計画が、トーポリによって無力化されてしまうかもしれません」(前出・軍事評論家)

クリミア侵攻の如く、軍事力を全面に出すやり方はいかにもロシアという感じだが、プーチンの恫喝はこれだけではない。

米国相手に、タイマンでの喧嘩も売っていたのだ。

「3月中旬、何者かが10兆円もの米国債を一挙に売り出し、相場が急落。米国の金融市場がパニック寸前にまで突き落とされたんです」(為替取引関係者)

米国債大量売りの"犯人"は判明していないが、「クリミア侵攻の軍資金の獲得と、米国への嫌がらせを兼ねてロシアが行ったのは、ほぼ確実です」(全国紙国際部記者)

実に大胆なやり口だが、プーチン大統領の肝の太さを語るのは、国際問題評論家の井野誠一氏だ。 「2011年のシリア騒乱では、欧米がNATO軍を介入させてアサド政権を一気に葬り去ろうとしました。これに対して、プーチン大統領は真っ向から異議を唱え、欧米の"暴走"を止める剛腕を見せつけたんです」

これまで米国に対し、こんなにも明確なNOを突き付け、飲ませることができた国があっただろうか。

そして、さらなる"隠し玉"をもチラつかせている。
「米国の機密情報を握るエドワード・スノーデン氏を、掌中の玉として温存しているんです」(外務省関係者)

"世界破綻"に導く最恐の計画

スノーデン氏は、米中央情報局や国家安全保障局の局員として米政府の情報収集活動に携わっていた人物。

それが昨年6月に突然、米国の"盗聴の手口"を全世界に向けて内部告発。
現在、米国から訴追を受け、ロシアに亡命中の身である。

「プーチン大統領は、スノーデン氏から米国の諜報活動の実態や方法などの極秘情報を入手。いざという時に"それを暴露する"と脅せば、オバマ大統領自身はもとより、盗聴で秘密を握られたとされている西側諸国のリーダーたちも黙らざるをえません」(前同)

08年に発生した南オセチア紛争で敵対したグルジアの大統領に対し、「睾丸(こうがん)を縛って吊し上げてやる」と啖呵(たんか)を切ったことがあるほどの武闘派大統領は、それを凌駕する"脅し"を欧米諸国にかけ始めたという。

「ロシアの行動に経済制裁をと叫ぶオバマ大統領に対し、プーチン側は"デフォルト(国家経済破綻)するぞ!"と破局カードをちらつかせて、逆に脅しに出ています」(在米記者)

ギリシャのデフォルト問題が世界の金融界を騒がせたのは記憶に新しいが、大国・ロシアが破綻となれば、全世界を道連れにするのは、自明のこと。

「ロシアの秘密警察の一員だったプーチン大統領と弁護士もどきのオバマ大統領では、勝負にすらならないというのが正直なところ。オバマ大統領は、プーチン大統領に飲み込まれてしまったも同然です」(前同)

一方、天然ガスの約3割をロシアからの輸入に頼っている欧州各国も、すでに白旗状態だ。

「なかでもドイツは、天然ガスや原油の4割近くをロシアから輸入しています。対露制裁に強く出れば、ロシアにガスの元栓を閉められかねない。ドイツは自国の経済を守るため、ロシアに強く出られません」(欧州特派記者)

実際に、09年1月にロシアがウクライナから欧州へと続く天然ガスパイプラインを約2週間にわたって閉じたことがあった。

「この時、欧州各国の工場は燃料不足で操業停止に陥り、多大な損害を受けました。その恐怖の残像が、いまだに欧州各国では払拭されておらず、対露制裁に二の足を踏む結果となっているんです」(前同)

不気味な習近平との共闘体制

また、1隻800億円前後と推測されるミストラル級強襲揚陸艦2隻のロシアへの売却問題を抱えているフランスも、対露制裁には及び腰で、「ロシアマネーが金融センターで大きな比重を占める英国も、闇雲な経済制裁には走れません」(同)

そんなロシアの"独り勝ち状態"に、かつての旧ソ連加盟国も色目を使い始めたという。

「ウクライナの隣国モルドバ東部にある沿ドニエストル自治共和国は、3月17日にロシアへの編入希望を公式発表。また、グルジアのアブハジア自治共和国と南オセチア自治州も同様の動きを見せています」(同)

まさに、ロシア周辺諸国で"併合ドミノ"と呼ぶべき現象が起きているのだ。

武闘派のロシアだが、抜け目のない対応を見せる相手もいる。
「それは、現在、米国債を約1兆7000億ドル(約119兆円)保有している中国です。プーチン大統領はそれを利用すべく中国にすり寄っているのですが、プーチン-習近平ラインは不気味以外の何物でもありません」(在北京記者)

前出の井野氏が言う。 「ベラルーシなど旧ソ連6か国で作る集団安全保障条約機構や、中国などと構成する上海協力機構。さらには、イランやキューバ、北朝鮮、アフリカ、中南米諸国と取り決めようとする安全保障条約……。プーチン大統領は、こうした包囲網を構築して、現在の米国一極支配体制に挑もうとしているんです」

そんなロシアの野望を前に、どっちつかずなのが、わが安倍政権だ。

「ロシアとの間に北方領土問題を抱えており、ここで対露制裁に強く出ることでプーチン大統領の機嫌を損ねたくないという思惑が安倍首相にあります。かといって、米国の意に反しての親露路線も取ることができず板挟み状態です」(自民党中堅議員)

そんな状況を、ロシア国営放送の『ロシアの声』は「安倍首相はロシアと欧米の間で茫然(ぼうぜん)自失状態にある」と揶揄(やゆ)し挑発する始末。

安倍晋三首相はまったく相手にされていないのだ。

「米国、欧州、日本の弱みをガチッと握り、中国を取り込もうとするロシアが近い将来、世界の覇権を握ってもおかしくはありません」(国際問題アナリスト)

世界制覇を目指すプーチン大統領。

その野望への足音は、刻一刻と大きくなっている――。

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