岩井志麻子のあなたの知らない路地裏ホラー

先日、いわゆるゴミ屋敷を専門に掃除する会社の社長さんにお会いした。

天井近くまでゴミ袋が積み重なった部屋の写真もたくさん見せてもらったが、もっとも強烈だと感じたのは、ペットボトルやビニール袋に排泄物を入れて溜め込み、積み上げられているものだった。一軒二軒ではなく、けっこうそういう人や家があるのだ。
トイレや浴室の水が流れなくなっても、修理を頼むと業者を散らかり放題の家に入れなければならなくなるから、それが嫌でそんなふうになってしまうのだという。

「ゴミ屋敷に困り果てて、どうにもならなくなって悩みぬいて、ついに私らに依頼してくるような人達は、普通の人達よりも気が弱くて繊細で引っ込み思案ですよ。社会的地位のある人、高学歴の人も多い。オラオラ系、チンピラ風の人っていませんね。排泄物を溜め込むのも、自分の分身に囲まれているようでどこか妙な安心感さえ覚えるらしい。だからきれいに片づけてすべて撤去してしまうと、ほっとする反面『なんか寂しい』『寒くなった』なんていうんですよね」

彼らは、もう自分では無理だと判断して業者に依頼してくるあたり、壊れきってはいない。本当に壊れたゴミ屋敷の人は、我が家はきれいだしゴミなんか一つもなくてどれも宝物だと思っているし、片づけろといわれると猛烈に怒って抵抗するそうだ。

「私ら、霊感なんてないですが。ゴミ屋敷って、確かに目には見えない何者かがいますよ。汚れきった浴室やトイレに、何者かがうずくまっているのが感じられます。ゴミを捨てるとそいつらもいなくなるから、きれいになった部屋に取り残された住人は、なんか寂しくなったと感じるんでしょう。頑として片づけないゴミ屋敷の人は、何者かに居座られて支配されているんでしょう」

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