人生に役立つ勝負師の作法 武豊
憧れの勝負服で誇りある勝利を手に
縦縞のユニフォームといえば阪神タイガース。あのユニフォームに憧れ、袖を通した自分の姿を想像し、「いつか、あれを着てグラウンドに立ちたい」と毎日、遅くまで練習に励んでいる子どもたちがたくさんいるはずです。
サッカー選手も同じ。現在、所属するチームのユニフォームに誇りを感じ、勝利を目指して全力でプレーするのとは別に、いつか、世界一のクラブと呼ばれるバルセロナのユニフォームを着てピッチに立ちたいという思いがどこかにあるのではないでしょうか。
そして、競馬には勝負服があります。
チーム・キズナ。
チーム・ディープインパクト――。
馬はもちろん調教師の先生、スタッフ、オーナー、そしてファンが心をひとつになったと、その旗印となるのが勝負服。厳密に言うと、勝負服はオーナーのもので、騎手にとってはそのレースかぎりの借り物にすぎませんが、そこには、騎手としてのプライドと、馬に対する敬意、関係者、ファンに対する責任が縫い付けられています。
――いつか、あの勝負服を着てみたい。
競馬学校時代から、僕がずっと憧れていたのは、ゴドルフィンの勝負服。色鮮やかなロイヤルブルー一色の勝負服でした。
許された者しか袖を通すことができない勝負服。あの勝負服を着るということは、そのまま世界に認められるジョッキーになったということですから、夢が現実になったときは、ちょっと、どころではありません。もう、その場で飛び上がりたいほどの嬉しさでした。
1995年5月14日。第45回安田記念――。
スキーキャプテンで挑戦した「ケンタッキーダービー」(14着)から帰国。同じ週のレースで、ゴドルフィンのハートレイクに騎乗した僕は、馬上で誇らしげに胸を張っていました。
前哨戦のGⅡ京王杯SCは、大きく引っ掛かってしまい5着。この安田記念も、1番人気サクラチトセオー、2番人気ネーハイシーザー、3番人気ホクトベガに続く4番人気。それでも、一度、騎乗したことで彼の性格や特徴を掴んだ僕は、「チャンスは十分にある」と思っていたのです。
中団でためにためたパワーを、最後の直線で一気に解き放つ――。
展開も、作戦も、すべて思い描いたとおり。ハートレイクと青い勝負服を身にまとった僕は、先行していた馬の間を割るようにして抜け出すと、後ろから恐ろしいほどの脚で迫ってくるサクラチトセオーをハナ差抑え、ゴール板に駆け込んでいました。
今年、この「安田記念」で僕のパートナーを務めてくれるのは、藤原英昭厩舎のトーセンラー。昨年11月に行われたGⅠ「マイルCS」の優勝馬です。
春のGⅠも、残すところあと2つ。今週の「安田記念」と6月29日の「宝塚記念」だけです。ぜひ、競馬場に足を運び、競馬の面白さを体感してください。競馬場でお待ちしています。
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