人生に役立つ勝負師の作法 武豊
この時季は天気予報を見る日々です



うまくいくか、失敗するか!? 結果が気になるのは誰も一緒ですが、その前段階で気になることは、職種によって違います。

漁師さんなら、海が時化ているかどうか。サラリーマンなら、電車が遅れていないかどうか。ドライバーの方は、渋滞情報が気になって仕方がないと思います。

僕らジョッキーが気になるのは、第一に馬の体調。次に、同じレースに出走するライバルたちの顔ぶれ。作戦を考える上では、芝の状態や枠順も気になります。

そしてもうひとつ。結果に大きく影響するのがレース当日の天気です。特に今年のように、6月なのに30度を超える暑い日が続いたと思ったら、今度は、いきなりの梅雨という年は、毎日、週間天気予報をチェックしています。

2005年6月29日――梅雨のまっただ中に行われた第28回「帝王賞」も、当日まで天気予報が気になって仕方がない、そんなレースのひとつでした。

トゥインクルで行われた大井競馬場の当日の天候は曇り、馬場は重。1番人気に推されたのは、地方競馬の代表格、ナイキディアライトと石崎隆之騎手で、前年のJCダートを勝った僕とタイムパラドックスは2番人気。以下、ケント・デザーモとスターキングマン。アンカツさん(安藤勝己騎手)とユートピア、和田竜二騎手とクーリンガーと続き、6番人気は、当時、まだ地方競馬に在籍していた内田博幸騎手と中央のストロングブラッドのコンビでした。

このとき、タイムパラックスは7歳。大井競馬場では3戦して勝ち星ナシ。年明け初戦のGⅠ「川崎記念」でふたつ目の大きな勲章を手にした後は、GⅠ「フェブラリーS」(4着)。GⅡ「ダイライト記念」(2着)。GⅠ「かしわ記念」(2着)。GⅡ「東海S」(3着)と、勝ち切れないレースが続いていました。

晴れが続き、パサパサに乾いた砂なら、どう乗れば勝てるのか。豪雨によって水が浮くような馬場になったらどうするか。適度に湿り気がある馬場状態のときは、こう乗ろう――いく通りもの展開を頭のなかに思い描き、レース当日は、勝つイメージだけを持ってレースに臨んでいました。

タイムパラドックスの生涯成績は、50戦16勝。獲得賞金は、9億7786万5000円。5つのGⅠ勝利のうち、この帝王賞を含め4つのGⅠをともに勝てたことはいい思い出であり、この馬から教えられたことは僕の中で生きています。

このタイムパラドックス、ヴァーミリアン(09年)、スマートファルコン(11年)に続き、4度目の戴冠を狙う今年の僕のパートナーは、ワンダーアキュート。タイムパラドックス以上に勝ち切れないレースが続いていますが、天気を味方に、今度こそ――という強い気持ちで挑みます。

6月25日、水曜日。発走は午後8時10分。鮮やかなカクテル光線に照らされたコースを、先頭で駆け抜けるワンダーアキュートにぜひ期待していてください。


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