開催が近づくにつれ、過熱した反対デモ、開幕1週間前を狙い撃ちした地下鉄のストライキ、そして、突貫工事でも間に合わなかったスタジアム建設……未曾有の混乱の中で開幕したサッカーW杯ブラジル大会。

地元ブラジルが地の利を活かして優勝するのか、スペインの2連覇はなるのか、はたまた日本代表は厳しいグループリーグを勝ち抜くことができるのか。
眠い目を擦りながら、テレビの生中継に連日、かじりついている人も多いことだろう。

どの試合も、歴史が作られる瞬間となるだけに目が離せないが、同様に目を背けてはいけないのが、不測の事態が起こりうる環境だということだ。

リオデジャネイロ州公共治安研究所が発表した統計によると、2014年1~3月の路上強盗件数は、前年同期比44%増の1万154件となったという。
「一時、犯罪件数は都市では減少しつつあったんですが、W杯を機に一気に戻ってきたようです。しかもブラジルでは、軽微な犯罪であっても犯行の際に拳銃が使用されることが多く、生命の危機にさらされるんです」(現地記者)

実際、テレビ局のインタビューを受けている一般市民がカメラの前で強盗に襲われるなど、無法地帯とも呼べる状況で、日本の外務省も〈抵抗するとけん銃等で危害を加えられ、殺害される可能性も非常に高く〉と警告している。

実は、7日にブラジル入りした日本代表にも、「あわや」という危機があった。

8日、現地で初の公開練習を行ったのだが、その場所からわずか500メートルの距離にある民家で、銃を持った男が医師を殺害、息子夫婦にも重傷を負わせるという事件が起きたのだ。
「日本代表が練習施設に到着した際、物々しい警備にビックリしましたが、こんなに近くで殺人事件が起きる環境ですから、当然かもしれません。公開練習に訪れた5400人の観客やサポーターも、地元警察の厳重な警備の中での応援となりました」(特派記者)

また、25日に、日本対コロンビア戦が行われるアレーナ・パンタナール・スタジアムでは、遅れた工事を急ぐあまりに、5月8日、作業員が感電死するという痛ましい事故も起きている。
「日本代表と直接の関係はないですが、選手にとっても、スタジアムを訪れる日本人にとっても、気分のいい話ではありません」(前同)

4年間の厳しい強化策によって辿り着いた大舞台だが、決して、サッカーだけに集中できる環境とは言えなそうだ。
「ピッチ上の戦いだけでなく、こうした混乱を含めたすべてをW杯の構成要素と考えるべきです。W杯は、オリンピックをも凌駕する世界最大のイベントですから、当然、トラブルの数も多く、そもそもがカネと利権がドロドロに絡む構造なんです」(ベテランのサッカーライター)

開催国の招致合戦に始まり、スタジアム誘致、テレビ局の放映権争奪戦、チケット狂騒曲、八百長、収賄、審判の買収……。

過去、こうした問題の中でも最悪の事件は、94年の米国大会で発生した。
同大会でコロンビア代表は、エスコバル選手のオウンゴールもあってグループリーグで敗退したのだが、「直後、彼は自国で"オウンゴールをありがとう"という言葉と12発の弾丸を浴びせられて、射殺されてしまったんです。オウンゴールへの単純な報復なのか、それとも不法な賭博が絡んだものなのか、真相は闇の中です」(前同)

こうした事件は絶対に避けなければいけない事態だが、こういう事態もありうるのがW杯なのだ。

そして、それは日本にとっても他人事ではない。
「日本人にとって思い入れの強い02年の日韓W杯は、もともとアジアで初めての開催国となるべく、日本が単独で動き、ほぼ決定していました。しかし、途中で韓国が強引に割り込んで、共催へと漕ぎ着けたんです」(スポーツライター)

このとき日韓共催の"立役者"となったのが、当時のFIFA副会長だった大
韓蹴球協会の鄭夢準(チョンモンジュン)氏だ。
「彼は韓国屈指の財閥『現代』の創始者・鄭周永(チョンジュヨン)の六男。その潤沢な資金で欧州の理事に取り入ったとされています」(前同)

かくして開催された日韓大会は、『誤審』が相次いだ大会となり、FIFAの映像ライセンスを扱う会社が認定した『世紀の10大誤審』のうち5つが、この大会のものとなったのだ。
「しかも、そのうち4つは韓国戦のものなんです。たとえば、韓国とスペインとの一戦では、スペインのエースFWモリエンテスのゴールが、不可解な判定で2つも取り消されていますし、韓国対イタリアの試合では、イタリアの司令塔トッティが、ゴール前で明らかに倒されたにもかかわらずシミュレーションと判定されて、まさかの退場処分に。そもそも韓国は、90分間通してエルボーや体への蹴りなどラフプレーを繰り返しながら、ほとんどファールにならないんです」(同)

日本代表も絡んだ八百長試合

結果、韓国が初めてW杯ベスト4に輝く一方で、世界中のサッカーファンが審判買収の疑惑を持ち、イタリア検察も動くなど一時、騒然となったが、FIFAはこの黒い噂を否定した。にもかかわらず――。
「韓国-イタリア戦を務めたモレノ主審は、日韓W杯後、理由の明示なしに国際審判リストから除名されたんです。そして10年、ヘロイン6キロの密輸で逮捕されるという数奇な運命をたどりました」(同)

いまだに疑惑が残るこの一連の出来事について、今年6月、鄭夢準氏自身が重大発言をしている。

同4日投開票のソウル市長選に出馬していた鄭氏は、遊説先で数百人の支持者を前に、「秘密の話をしよう」と切り出し、鄭氏が審判を買収して『ベスト4』を成し遂げたことを示唆する発言をしたのだ。
「世界を揺るがす大スキャンダルになりうるだけに、この発言は韓国紙はもちろん、世界中で流れました。彼が市長選で大敗を喫したのも、韓国社会で買収への疑念が強かったからかもしれません」(全国紙記者)

こうしたサッカー界の八百長に、真っ向から挑む人物がいる。

W杯の裏側を描いた『黒いワールドカップ』(講談社)に続いて、この6月25日に、サッカーにおける八百長試合をレポートした最新作『あなたの見ている多くの試合に台本が存在する』(カンゼン)を上梓するデクラン・ヒル氏だ。

W杯の暗部を赤裸々に明かす著書の中で衝撃的なのは、日本代表も決して八百長とは無関係ではないと、2つの事例を挙げていることだ。
それは、10年のW杯南アフリカ大会前の招待試合、日本対ジンバブエ戦と04年のアテネ五輪の日本対ガーナ戦である。

一口に八百長といってもいくつかの種類があり、ジンバブエ戦は、あるエージェントがマッチのすべてを取り仕切り、日本が勝つように仕向けた試合だったと、ヒル氏は言う。

日本側関係者からすれば思いもよらない話なうえ、結果的に、この試合は引き分けに終わったのだが、「FIFAの極秘報告書では、捜査員らがその試合を"疑わしい"ものだと見ており、"さらなる捜査"を要求しています」(前同)

もうひとつの"疑惑の試合"は、W杯ではなく、04年に開催されたアテネ五輪の日本対ガーナ戦(1-0で日本の勝利)だ。

日本は、勝っても決勝トーナメントへ進めず、逆にガーナは勝てば決勝トーナメントへ進出するという状況で、ガーナはわざと日本に負けたというのだ。

しかも、ヒル氏によると、当時のガーナ代表主将のアッピアーは、この大会中に金銭を八百長フィクサーから受け取ったことを認めている、というのだ。
「勝てば決勝トーナメントという試合で、なぜ、わざと負けるのか。それは、サッカーが賭博の対象となっているため、予想外の展開を演出したいフィクサーが大金を支払うからです。そして、貧しい国の選手たちは名誉よりも、そのカネに傾いてしまうという現実があります」(ルポライター)

60倍以上に高騰した放映権料

このような八百長のみならず、本丸のFIFAでもカネの問題が噴出している。
キー局関係者が「常軌を逸した金額」とブチまけるのが、W杯の放映権料だ。
「98年のフランス大会では、NHKは6億円ほど支払って放送していましたが、前回の南アフリカ大会で日本のテレビ局が支払った額は250億円。そして今回は400億円。わずか16年で60倍以上にも高騰した放映権料は、その根拠が乏しいうえに、その約25%が使途不明金とされているんです!」

そして現在、22年カタール大会の招致活動での、FIFA理事の買収疑惑が世界を駆け巡っている。
「6月1日付の英紙サンデー・タイムスが、招致レース当時に理事だったカタール出身のモハメド・ハマム・アジアサッカー連盟元会長が、500万ドルの資金を費やして他の理事を買収、招致に成功したと報じたんです」(通信社記者)

これに対し、ソニーやアディダス、ビザなどのFIFAの有力スポンサーが「適切な調査を期待する」などとコメントしたため、「前代未聞の再投票となる可能性も出て来ました。日本も立候補していた大会でもありますし、今後の調査が待たれるところですね」(前同)

こうして見ると、現在のサッカー界が完全にカネに支配されているように思えるが、決して、それがすべてではない。

現在の日本の五輪代表監督の手倉森誠氏が地方クラブであるベガルタ仙台の監督時代から、一貫して選手に言い続けていることが、"国や地域を背負っているという誇りと責任"という言葉である。

そして、我らが日本代表も、国や国民の期待を背負っているという誇りと責任を持ったチームである。

W杯は、そうした、すべての小さい誇りが集約された場であるという一面もまた、真実である。

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