金縛りに遭ったとき、見えない男とまじわってしまった梅雨子。その後、現実に夏川という男に出会ったとき、なんともいえない感覚に襲われた。恐怖なのか期待なのかわからない、鼓動の高まりと鳥肌が立つのを感じた。
「夏川さんと初めてベッドに入ったとき、彼の髪の毛をさわって、あっ、これ金縛りの 男だ、とわかったんです。何から何まで、金縛りの男と同じ。快感も同じでした」

私に怖い話だかエロい話だかわからない話をしてくれる梅雨子は、妙な艶っぽさがあった。ただし、健康的なセクシーさではない。どこか病んでいる気配があった。
「金縛りにあったときも、夏川さんの存在は知ってたんですけど。彼だとは思わなかったし、現実にそういう仲になるとも想像しませんでした。二人きりになるまでは、もちろん髪の毛なんかさわったこともなかったですよ」
「じゃあ、夏川さんは昔からあなたを好きで、生霊になって行ってたのかな」

私は、梅雨子の語る彼を知らない。でも、なんとなく嫌な雰囲気は感じていた。
「彼も、不思議な話をしてくれたんです。彼も真夏のような寝苦しい雨の夜、誰かを抱きしめている夢を見たんですって。知っているのに、誰だかわからない女だったそうです。でも私を初めて抱きしめたとき、あの金縛りの女だとわかったんだって。私も生霊になって、夏川さんを金縛りに遭わせてたのね」

古今東西、幽霊や物の怪とまじわった怪談は多くある。日本で最も有名なのは牡丹燈篭 だろう。
牡丹燈篭を筆頭に、ほぼすべて結末は恐ろしいことになる。生霊との話はあまり聞いたことはないが、これもとうていハッピーエンドになるとは思えない。けれど梅雨子は、夏川本人とも彼の生霊ともまじわり続けていたのだ。

次週に続く



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