またも、ズサンな警察の交通取締りが発覚した。

本誌取材班を唖然とさせた"その舞台"は、東京外環自動車道。
現在、東京都練馬区の大泉ICから埼玉県三郷(みさと)市の三郷南ICまで、東京都心の北側をグルリと半円形に走っている高速自動車道だ。

「2006年1月に三郷JCT~三郷南IC間(約4 ・5キロ)が開通。以降、今年4月まで8年以上にわたり、埼玉県警の高速隊などが"車両通行帯違反"で不正な交通取締りを続けていました」(全国紙社会部記者)

その間に約2400人がいわゆる「違反キップ」を切られ、違反点数と反則金などが課せられていたという。
累積した反則金は約1440万円にのぼった。

「反則金はいったん国庫に入り、国の特別交付金として都道府県や市町村に交付されます。つまり、反則金は自治体にとって貴重な財源。皮肉な言い方をすると、埼玉県警は不正な手段で1440万円を得ていたことになります」(前同)

しかも、違反点数が加算されたことにより、免許停止や免許取り消しになるドライバーが85人に及んだという。

トラック運転手など職業ドライバーにとっては、免停や免許取り消しにより職を失い、家族が路頭に迷うケースがあるだけに、事は重大だ。

そもそも、埼玉県警が不正に取り締まった「車両通行帯違反」とは何なのか。

交通規則によると、追い越し車線は、あくまで追い越し行為のための車線であって、通常は走行車線を走らなければならない。

つまり、"追い越し車線を走り続けた"ため、違反行為として咎められたわけだ。

ある警察関係者が、こう続ける。
「車両通行帯のみならず、速度制限なども、公安委員会の決定があって初めて交通規則と認められます。埼玉県警であれば、交通規制課が県の公安委員会に、片側3車線の外環道のうち、左側の2車線を車両通行帯とすることを申請し、その決定を受ける必要があるんです。それを経て初めて、右側の追い越し車線を理由なく走り続けるドライバーを検挙できます」

しかし、埼玉県警は「三郷JCT-三郷南IC」間が開通した際、公安委員会の指定を受けていなかったというのだ。
なんとも間の抜けた話。

開通の際に、県警交通規制課の担当者が公安委員会への申請を忘れてしまったとでも言うのだろうか……。

記者会見で埼玉県警は反則金の返還などのほか、「誤って違反告知した方に深くお詫びし、職員への指導を徹底する」とコメントしたものの、なぜ、そのようなミスが起きたのか、根本的な説明はなされなかった。

ミスの原因をハッキリさせることなく、どうやって職員の指導を徹底しようというのか。

本誌は、道路交通評論家の鶴田光秋氏とともに埼玉県警に取材を申し込んだものの、同県警はマスコミへの個別対応は行わないと伝えてきた。

そこで、鶴田氏が個人として、本件に関して埼玉県警に直撃取材を行った。
「取材中、いったい、どういうシステムで公安委員会の指定を受け、また、どうやってミスが起きたのか質しても、"ウ~ン"と言って答えない。"8年も前のことだから……"と繰り返すばかりでした」(鶴田氏)

鶴田氏があきれた様子で続ける。
「ミスの原因特定も重要ですが、そもそも、8年以上も不正取締りを行い、その事実に気づかなかったことが異常なんです。交通取締りというのは、交通安全のために行うのが原則。警察にその意識さえあれば、取り締まる対象の道路にどういう危険性があるのかなど実態を事前調査していたはずです。その労を惜しんだため今回のミスにつながったんでしょう」

埼玉県警はなぜ、こんな単純ミスを犯したのか。
「つまり、交通安全に問題が生じるから取り締まるのではなく、"取締りのための取締り"を行っていた事実が露呈してしまったわけです。その意味で言うと、(原則を忘れた)埼玉県警に取り締まる資格はないと言えるでしょう」(前同)

だが、ズサンな取締りは埼玉県警だけではなかった。
実は他の県警でも、同じ過ちを犯していたことが発覚している。

「埼玉県警の不正取締りを受け、各県警が調べたところ、富山県警でやはり、車両通行帯に指定されていない区間において、追い越し車線を走り続けていた36台の車を検挙していた事実が判明しました」(モータージャーナリスト)

問題の区間は、能越自動車道の「小矢部砺波JCT-富岡IC」間(約12・7キロ)。

03年5月に同区間の指定が解除されていたにもかかわらず、富山県警はその事実を知らないまま、現場で不正な取締りを6年以上続けていたというのだ。

「09年10月に富山県警の高速隊がようやく過ちに気づきました。しかし、その時点で過去に誤って検挙した事例があるかどうか調べず、県警はそのまま放置していたというんです」(前同)

結局、今年になって反則金の返還と違反点数の抹消を行うことになった。
だが、富山県警はいわば"無実の罪"でドライバーを検挙し、反則金まで納めさせながら、5年近くにわたり"知らんぷり"していたことになる。


団地内の標識で"勘違い検挙"

交通事故の鑑定調査などを行う民間会社『日本交通事故調査機構』の佐々木尋貴代表は、かつて宮城県警の白バイ隊員として交通取締りにあたった経験を持つ。

"交通取締りのプロ"は、こう語る。
「公安委員会発行の資料集には、どの道路でどのような交通規則の意思決定がなされているか、住所を含めて詳細に記録されています。私は現役時代、取締りの際には必ず、その資料で確認し、下調べしてから行っていました。しかし、残念なことに"交通取締りのプロ"でない職員、たとえば交番や高速隊勤務の警察官の中には、下調べをせず、思い込みで検挙してしまう例もあるんです」

たとえば、団地内にある道路標識。
なかには団地の自治会などが定めた"プライベート標識"もある。

「ところが、公安委員会に指定された標識だと勘違いし、標識を無視した車を交通規則に違反したと思い、誤って検挙してしまう例もあるんです」(前同)

取り締まる側が"ルール"を理解していない――

こうなると、もはや何を信用していいのかわからなくなる。

今回、埼玉と富山で発覚した「車両交通帯違反」については、"そもそも本末転倒では"という批判もある。

交通ジャーナリストの今井亮一氏が、こう語る。
「高速道路などで前を走る車を追い抜く場合、いったん追い越し車線に出て走行車線に戻らねばなりません。しかし、前後の車とは安全のために100メートルの車間を保つ必要があります。その際、追い抜こうとする車がもう1台いたら、少なくとも200メートルは追い越し車線を走らなければなりません。ところが、そういう場合でも車両通行帯違反に問われるケースがあると聞いています。そのことを気にして、150メートルで走行車線に戻ったら、後続車と十分な車間が取れず、交通安全の面から言うと、そちらのほうが危なくなります。本末転倒と言うのは、このためです」

まさに、おっしゃるとおり。
これでは、"取締りのための取締り"と言われても仕方がないだろう。

「高速道路での検挙で最も多いのは"スピード違反"ですが、"シートベルト装着義務違反"とともに意外に多いのが、この"車両通行帯違反"なんです」(前同)

そこには、こんな事情もあるようだ。
「車両通行帯違反だと、6000円の反則金(普通車)と1点の減点で済みます。たとえば高速道路の追い越し車線で覆面パトカーに捕まり、"スピード違反には目をつむるから、車両通行帯違反の切符だけは切りますよ"なんて言われたら、ついつい切符にサインしがち。警察にしたら、それだけ反則金を取りやすいんでしょう」(ベテランのトラックドライバー)

一方、警察にとっても、「検挙件数=成績」という側面があり、取締りには熱心だ。
だが、それが行き過ぎた結果なのか、とんでもない"ねつ造事件"も起きている。

前述した「シートベルト装着義務違反」で、秋田県警の男性巡査長(26)が事件をねつ造したのは12年1月のこと。

その巡査長は、たまたま交番の前を通った軽自動車の助手席に座る女性がシートベルトを装着していないと思い、パトカーで追跡。

停止させて確認したが、巡査長の勘違いと判明する。
助手席の女性はきちんとシートベルトを装着していた。

ところが、「同期の仕事ぶりにプレッシャーを感じていた」という巡査長が、軽自動車を運転していた男性ドライバーの運転免許証番号などのメモから、違反切符を勝手に作成したという。

この巡査長は問題発覚後に退職し、虚偽有印公文書作成・同行使の疑いで書類送検された(起訴猶予)のだが、そもそも、こんなデタラメな話があるだろうか。

前出の佐々木代表は、自身の警察官としての経験を踏まえ、こんな指摘をする。
「叱咤激励のつもりかもしれませんが、実際に取締まり件数が少ないと、部下を怒鳴りつける上司がいたのは事実です。それをプレッシャーに感じた警察官がいるのかもしれません」


本来の姿を失った交通取締り

今回の埼玉県警の不祥事に関しては、同県警が、その原因を公表していない以上、真相究明には至っていない。たまたま起きた"ミス"なのか、それとも組織内部の問題が表出した"氷山の一角"なのか……。

「そもそも交通取締りの目的は、検挙にはあらず。ドライバーを指導して安全運転させることにあります。したがって、本来あるべき姿は、警告書を出してドライバーに注意喚起を促し、それでもダメなら違反切符を切るべきものです。ところが、違反切符は持っていても警告書を持っていない警察官がいる。このことが、彼らにとって交通取締りの目的が何なのかを象徴しているように思います」(前出・鶴田氏)

善良ドライバーまでをも巻き込む"警察のズサン交通取締り"。
我々の血税がそんなことのために注ぎ込まれているかと思うと、情けなくなってくる……。

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