人生に役立つ勝負師の作法 武豊
いよいよ秋競馬の戦いが始まります



42日ぶりのレースとなった8月31日の札幌競馬、第6レース。

僕を温かく迎えてくれたファンの方には、あらためてお礼を言いたいと思います。

本当にありがとうございました。

「お帰りなさい!」「待ってました!」「豊ーッ!頼んだぞ!!」

パドックで、本馬場で、かけていただいた一つ一つの声援が、僕に勇気をくれました。

トーセンクラウドをパートナーとして挑んだ第6レース(5着)。スマートオリオンとともに勲章を狙った11レースGⅢ「キーランドC」(7着)。

必勝を期したダンツカナリーとの最終12レース(3着)。

1つも勝てなかったことは、騎手として忸怩(じくじ)たるものがありますが、それ以上に、馬に乗れたこと、実戦でも何の問題もなかったことがうれしくて、自然と笑みがこぼれていました。

僕は、馬に乗っていられるなら毎日でも乗っていたいと思っているほどの競馬大好き人間ですから、これまでも休みが欲しいと思ったことはありません。

だからというわけではありませんが、夏休みもゴールデンウィークもない……

というか、いらないし、もし、競馬界に有給休暇があったとしても、まったく使わないままたまりにたまり、上司から叱られているかもしれません(笑)。

それほど馬に乗るのが好きなのですから、やっぱり僕にとって、騎手という仕事は天職なのでしょう。

さあ、そして、今週末から秋競馬が始まります。中山競馬場が改修工事中のため、東では新潟開催が続きますが、西の舞台は阪神へ。

日曜日のメインレースは、サマースプリントシリーズの最終戦、GⅡ「セントウルS」が行われる予定です。

僕がこのレースに勝ったのは5度。

95年ビコーペガサス。96年フジノマッケンオー。98年マイネルラヴ。04年ゴールデンキャスト。

一昨年は、エピセアロームに騎乗し、パートナーとともに歴史に名前を刻むことができました。

なかでもはっきりと記憶に残っているのは、グラスワンダーの同級生、マイネルラヴで勝ったレースです。

「セントウルS」の1週前に行われたGⅡ「ローズS」をファレノプシスで快勝。勝利騎手インタビューの最中に、"怪物"ナリタブライアンの訃報が飛び込んできて……。

競馬界全体が暗いムードに包まれる中、少しでも明るい光を追い求めてつかんだ鮮やかな勝利は、きっとブライアンにも届いたと思っています。

振り返るとこの年は、実にいろんなことがありました。

夢にまで見たダービージョッキーになれたのもこの年。シーキングザパールで、仏GⅠ「モーリス・ド・ギース賞」を勝ち、ファレノプシスで、桜花賞と秋華賞、2つの大きな勲章をいただきました。

そしてもうひとつ、稀代の快速馬、サイレンススズカがこの世を去ったのもこの年です。

禍福は糾(あざな)える縄のごとし。

僕にできるのは、目の前のレースを、一つずつ、大切に乗ることです。


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