アメリカの研究者ジェームズ・ワトソン氏(85)はDNAの分子構造の分野において多大なる功績を残した一人である。『核酸の分子構造および生体における情報伝達に対するその意義の発見』という研究で1962年にノーベル生理学・医学賞を受賞している。

しかし、その後の人生は順風満帆とはいかず、老後は経済的に困窮しという。
そこでジェームズ・ワトソン氏はノーベル賞を獲得した際に授与されたメダルをオークションで売りに出した。

去る12月4日にニューヨークのクリスティーズで競売にかけられた結果、メダルは475万7000ドル(当時のレートで5億4700万円)で落札された。
ちなみに、この価格については、もちろん功績を考慮されたということもある。しかし、存命する受賞者のメダルが史上初だったということも大きい。

さて、約5億4700万円で落札されたメダルだが、現在の持ち主はワトソン氏だ。メダルを落札したのはロシアの実業家で富豪、アリシェル・ウスマノフ氏(61)が落札したことを明らかにしたうえで「博士は史上最も偉大な生物学者の1人。メダルは自分で持っているべきだ」という理由で、なんと無償で返却したのだ。ちなみにウスマノフ氏の父親は癌で亡くなったそうで、「ワトソン氏が癌の研究に寄与した」という理由もあったそうだ。

しかし、なぜ、ノーベル賞を受賞した博士が困窮しているのか? 実は業績と同じくらいに問題発言が多いことでも有名なのである。とくに2007年10月には「アフリカの人々の知能は私たちと同じという前提で社会政策がつくられているが、すべての知能テストがそうではないことを示している」「今後10年内に遺伝子が人間の知能に差をもたらしていることが発見されるだろう」という人種差別発言は、氏への信頼を一挙に崩した。以降、学会からも距離を置かれた結果の貧困であり、最後の最後に名声の証であったメダルを手放すに至ったのだ。

そんな人物にも関わらず、ウスマノフ氏はメダルを落札したうえで返却をした。各社報道では困窮の理由についてほとんど触れていなかったが、事情を知ったうえでニュースを見ると、単純な『いい話』ではないのがわかる。

メダルを再び手にしたワトソン氏はなにを思ったのだろうか?

本日の新着記事を読む