2014年最後のコラムということで、今年観たプロレスで「ベスト興行」を選んでみたい。

もういきなり言いますが、「That’s女子プロレス」(3月22日、大田区総合体育館)です。

これは驚いたなぁ。ホント観にいってよかった。あの長与千種が一夜限りの復活。タッグながら長与の相手はダンプ松本!

史上最高の女子プロレスのカリスマ長与千種。80年代の当時の会場には「カープ女子」より熱狂的な「クラッシュ女子」がつめかけていた。

「長与のプロレスは弱者の叫びが入っているプロレスだ」と誰かが言った。たしかに、会場につめかける女の子はどこかおとなしめな人が多かったように思う。しかし、ひとたびクラッシュギャルズを見ると彼女たちは全力で長与の名前を叫んだ。

今でも伝説の事件として語り継がれている1985年8月の大阪城ホール。長与千種とダンプ松本との髪切りデスマッチ(敗者が丸坊主になる試合形式)。ここで長与は熱狂的な親衛隊の前で負けてしまう。泣き叫ぶ少女たちの前でニヤリとしながら長与の髪をバリカンで剃るダンプ。私は「阿鼻叫喚」という言葉をこのとき覚えた。

あの熱狂と騒然の時代から30年。立場も体型も変わった主役たちがリングに上がる。

ダンプ松本は極悪同盟を引き連れてやってきた。ブル中野もいる。クレーン・ユウもいる。

驚いたのはそのあとだ。極悪同盟がリングに揃った時、リングサイドから「帰れコール」が飛んできたのである。

エンタメとしてのプロレスのたしなみ方をわかった帰れコールではない。あの頃と同じ本気で全力の「帰れ!」である。

驚いた私はリングサイドに目をやった。そこには「親衛隊」がいたのである。あの頃と同じ「元少女」たちが。あの30年前の少女時代そのままでTシャツもお揃い。

私は二階席から観ていたのだが、照明と演出の効果で二階席からはリングがちょっとモヤにかかったように見えていた。その視覚効果がちょうど、リング上と親衛隊のいるリングサイドだけが何か忽然とタイムスリップして現れた空間に見えたのだ。

歳を重ねたレスラーがリングに上がり、大人になった観客が懐かしみながらプロレスを楽しむという興行は今でもよくある。しかし、観客席もあの頃そのままで再現されるのは本当に珍しい空間だった。すごい興行を観たなぁという思い。今年のベストワンです。

そういえば最近「インターステラー」という映画を観た。ワームホール(時の道穴)を抜けた先を描いた作品だ。

だけどプロレス界にはワームホールとパワーホールはいつも存在しているのです。

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