物事には何でも、「名目」と「実質」という2つの見方、尺度がある。「名目」とは見た目の大きさや価値を言い、「実質」とは“本質的な”大きさや価値のことを言う。

そして、我々が常に関心を払わなくてはならないのは、「名目」ではなく「実質」の方なのだ。少し大げさな言い方をするならば、「名目」に騙されるな、ということになるだろう。

今回のテーマである“賃金(給料)”にも、この「名目賃金」と「実質賃金」の2通りの尺度がある。改めて説明するまでもなく「名目賃金」とは、見た目の賃金、つまり金額ベースの賃金ということに他ならない。これに対して「実質賃金」とは、「名目賃金」で買うことのできる商品やサービスの数量を反映させた賃金のことを言う。

具体的には、「名目賃金」がいくら上がったとしても、必らずしも我々の生活が豊かになるわけではない、なぜなら物価の上昇が賃金の上昇を上回ってしまったならば我々の生活はむしろ苦しくなる、というような見方をするのが「実質賃金」のとらえ方なのだ。

そして現状では、この「実質賃金」については、長らく下落傾向が続いているのだ。厚生労働省の調査では、この「実質賃金」については、調査結果が出ている昨年10月までの時点で、何と16ヵ月連続で下落している。つまり我々の生活は、少なくとも16ヵ月連続で苦しくなっていると言える。賃金の面で見るとアベノミクスは、まだ何の成果も生み出していないということになる。

ならばどの程度、賃金がアップしたならば、「実質賃金」はプラスに転じるのだろうか? そもそも、16ヵ月連続で「実質賃金」がマイナスになっている理由は、大きく2つある。

1つは、昨年4月の消費税増税に伴なう物価上昇だ。昨年4月に消費税の税率は、5%から8%に引き上げられ、それを受けて価格もアップし、消費者物価は2%程度上昇した。これが1つ目の要因だ。

2つ目の要因は、円安が進展したことで輸入品の価格は上昇し、物価もそれと連動して2%弱上昇した。

この2つを合わせて約4%弱、物価は上昇していると言っていいだろう。したがって、4%程度の賃金アップがあって、ようやく生活レベルはトントンになる。

ところが、昨年4月の春闘では、ベースアップは平均して1%程度だったのである。数字の上からも、我々の生活が苦しくなっているのは明らかだろう。

今後の物価上昇のことを考えると、最低でも5%を超える賃金アップが実現しないと、昨年10月以前の生活レベルは維持できないと考えていい。

そこで筆者から当コラム読者への提案なのだが、皆さんの職場の経営者や上司に当コラムを見せて、賃金アップを交渉してみてはいかがだろうか? そして、その際の注意点なのだが、繰り返しになるが、くれぐれも「名目賃金」に騙されないでいただきたい。我々が目を向けるべきなのは、「実質賃金」なのだ。


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