俳優・でんでん「いい役者の演技をコピーするだけじゃ不十分」~役作りに心血を注ぐ人間力の画像
俳優・でんでん「いい役者の演技をコピーするだけじゃ不十分」~役作りに心血を注ぐ人間力の画像

「いい役者の演技を見て、それをコピーするだけでは、充分じゃないと思うんです。養分をもらうには、市井の人々の中に入っていかなければ」

僕ら団塊の世代は、子ども時代、将棋や相撲などが、もっぱらの遊びでしたね。生まれが九州なんですが、そこのしめ飾りは上にピッって立ってるんです。まるで、鎧兜みたいに。それを、化粧回しにして、横綱気分を味わったりして遊んでいました。土俵は、地べたに線を引くだけじゃ面白くないんで、穴を掘り雑草を入れた上に土で固める。そしたら土俵が締まるんです。

将棋は、20代後半にまた始めました。将棋道場のある新宿将棋センターによく通っていましたね。最後は三段までいったんです。

あと、その頃は、麻雀もよくやりました。フリーの雀荘に行っていたんですが、ある日、プードルを小脇に抱いて、タバコを咥えた色白のびっくりするような男前と卓を囲んだんです。メンバーは、僕と、タクシー運転手の2人組と、その色男の4人。半チャンが終わって、その色男が「誰がトップだ」と聞くと、ひとりのタクシー運転手が「俺」と答える。そうすると色男は「小便」と立ち上がり、戻ってくるともう一度、「誰がトップだ」って聞くんです。運転手が同じ返答をしたら、その色男の目つきがキッと変わって、いきなりビンタですよ。

その勢いで「お前ら、点棒のやりとりしてんじゃねーぞ」と脅すんです。で、運転手が「何もやってねーよ、なあ?」と、僕に同意を求めるんで、別にイカサマしていた感じもしないし、「うん」と答えてその日はそのまま終わったんです。

そしたら、次の日、同じ雀荘で打っていたら、若い衆を連れたプードル男が乗り込んできたんですよ。裏に連れていかれ、色男は、ヤクザ映画そのままにブロックに足を掛け、腰を曲げプードルを抱いたまま、「殺さねえ程度にやれよ」と手下に指示。僕はもう観念して、「何発殴られるんだろう」って数えていたら、7発。それは、その後の経験からも変わらない。7発がポイント。むこうもそれで、形がつくんです。

こんな経験でも、役者になってからの役作りに役立っているんですよ。
いい役者の演技を見て、それをコピーするだけじゃ充分じゃないと思うんです。養分をもらうには、生活者の中に入っていかなきゃならない。高校1年の時かな。学校帰りに、中学の同級生とばったり会って、一緒にいた彼の兄貴を紹介され、そのまま、ご飯を食べたんです。カレーをご馳走になって……、この時、人生で初めてカレーとご飯が別々の器にはいっているのを食べました(笑)。

その話はおまけですが、びっくりしたのは、その兄貴。眼光鋭くて空手もやっていて、地元では有名なワル。後に、保険金殺人で逮捕されるんですが、僕とご飯を食べたのが、犯行から、たったの3日後だったらしいんですよ。普通なら、人殺したら、バレるんじゃないかってオドオドすると思うじゃないですが、でも、ごくごく普通に振る舞っていたんです。これが現実なんだなと。

まあ、そういった実際にいる市井の人々をミックスさせて、役を自分で作っていくんです。日本アカデミー賞助演男優賞をもらった『冷たい熱帯魚』の連続殺人犯役も、そういった経験が、知らず知らずのうちに演技に出ていたのかも知れません。たくさんの賞もいただき、今の僕を作ってくれた印象深い作品です。

今回出演した三池崇史監督の映画『極道大戦争』も同じ。リリーさん演じるヤクザヴァンパイアの組長に、血を提供する居酒屋のオヤジの役なんですけど。三池組の現場は楽しかった。こちらのアイディアも受け入れていただいて。ただ、登場時のテンションを最後まで維持できなかったのが、反省点。これまで、そこそこの数の作品に出演していますが、今でもやっぱり反省はします。完成した作品は、シリアスとギャグが程よくミックスした娯楽アクション作品で楽しんでいただけると思います。今後は、超善人役をやりたいですね。

三國連太郎さんが主演した『飢餓海峡』で伴淳(伴淳三郎)さんが演じていた刑事役のようなのとかね。それと卓球。東京卓球選手権に向け、日夜特訓中です(笑)。マスターズ部門で、推薦枠のお誘いを受けているんです。

撮影/弦巻 勝


でんでん

1950年1月23日、福岡県中間市生まれ。高校を卒業後、渥美清に憧れ、役者を目指し上京。しかし、丸井の社員となり数年間サラリーマンを経験後退社。30歳で『お笑いスター誕生!!』に出演し、お笑い芸人としてデビュー。その後、役者に転向し、目覚ましい活躍をする。81年の映画『の・ようなもの』の好演で演技力が認められ、多くの映画作品、テレビドラマに出演。映画『冷たい熱帯魚』では、日でんでんさんが出演する映画『極道大戦争』は、6月20日より全国公開される。 本アカデミー賞最優秀助演男優賞など多くの賞を獲得し、現在の地位を確立する。

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