映画監督・SABU「阿部寛が大スターになってかなり悔しかった」~観客を楽しませる人間力の画像
映画監督・SABU「阿部寛が大スターになってかなり悔しかった」~観客を楽しませる人間力の画像

「劇場で観客と作品を見て、一緒に盛り上がれるときが、映画を撮っていて良かったなと思う瞬間なんです」

いま、映画監督としてお仕事させてもらっていますけど、元々はバンドをやりたかったんですよ。それで自作のレコードとか作って、芸能事務所に持ち込みしたんですけど、そこが、たまたま役者の事務所だったんです。俳優とかにあんまり興味なかったんですけど、まぁいいかなと思って、役者としてしばらくやっていました(笑)。

ただ、オーディションとか受けてはいたんですけど、役者だけでは、全然食っていけませんでしたね。ずっと水道工事のバイトをやっていて、家の便所のつまりを直したりしていました。その時によくつるんでいたのが、同世代だった阿部寛や、大沢たかお。
特に、阿部は同い年だったんですけど、当時はファッション雑誌のモデルとかやっていて、でも、飲みの場とかで、"本当は役者をやりたい"っていうんです。だから、"モデルやって、役者になれるわけないやろ、ボケ!"とか言っていたら、気がついたら、もう大スターでしょう。かたや、僕は水道工事のバイト。あの時は、かなり悔しかったですね。

その後、僕も大友克洋監督の映画『ワールド・アパートメントホラー』のオーディションに受かって、初めて主演をやらせてもらえることになったんです。でも、それからなかなか、"おもしろい、この作品に出たい"と思えるような映画に出会えない時期が続いたんです。

だったら、自分で作ればいいやと思って、脚本を書いてみたのが、映画監督になるきっかけでしたね。やっぱり、僕は攻撃する方が好きなんです。役者って、オーディションの話がないと、なんもできないじゃないですか。

でも、監督なら、自分で脚本書けば、撮れますからね。自分で自分のペースを作れるほうが、性格的に向いていたのかもしれません。
それで、監督になったらなったで、いまは小説の映画化ばっかりでしょう。それなら、小説書いてやろうって、今回、小説書いて、それを自分で映画化しました。

沖縄が舞台なんですが、天上界に住んでいるシナリオライターが、地上に住む人それぞれの人生のシナリオを書いているという設定なんです。そして、その天上界でお茶汲みをやっている青年が地上界の少女に恋してしまうというお話です。

正直、誰か他の監督に映画化してもらいたいというのもありましたね。原作者が、設定の変更に対してノーと言っているみたいなのをやりたかったです(笑)。こうして振り返ってみると、バンドから始まり、小説まで書いて、全部、中途半端だなとは自分でも思いますけどね。でも、ムカついちゃうんですよ。

映画とか本とかでも、誰からも突っ込まれないように、物語の辻褄合わせようと、説明ばっかりのものとかを見ると。誰の為にやっているんだ、時間軸もクソもあるかって。あとから見返したら、辻褄が合っていなくても、観客が見ていて、おもしろくて、つい引き込まれてしまうような物を作りたいんです。

もちろん、芸術作品として賞を受賞するという作品も作ってみたいです。そういう意味では、今回の作品は、ベルリン国際映画祭に招待してもらえて、うれしかったです。
劇場でお客さんと作品を見て、一緒に盛り上がれたら、最高ですよね。
そのときが、僕にとって映画を撮っていて良かったなと思う瞬間なんですよ。

撮影/弦巻 勝


SABU さぶ

1964年11月18日、和歌山県生まれ。86年に映画『そろばんずく』で役者としてデビュー。91年の『ワールド・アパートメントホラー』で初主演を務め、第13回ヨコハマ映画祭最優秀新人賞を受賞。96年に『弾丸ランナー』で初めてメガホンを握り、その後、『蟹工船』、『うさぎドロップ』などのヒット作を手がける。最新作の『天の茶助』は、主演・松山ケンイチのほか、大杉蓮、伊勢谷友介ら人気俳優が勢ぞろい。

本日の新着記事を読む