前回の当コラムで中邑真輔の海外移籍について書き、『スターレスラーの退団でピンチとみられるや、逆に新しい展開が起きたり、大化けする人が出てくるのもプロレス史の必須であり嬉しい誤算でもある。イレギュラーはチャンスでもある。となると、2016年の新日本プロレスはますます楽しみではないか。』と最後に書いた。

 では現時点で誰に注目したいか。まず棚橋弘至の名前をあげておきたい。え、なんで棚橋? すでに確固たる存在だろう、と不審がられるかもしれない。おまけに棚橋は今年の1・4でオカダ・カズチカに敗れIWGPヘビー級王座奪回はならなかった。2011年から東京ドーム大会のメーンを務め、すべてに勝利してきたが、ついにストップした。

≪持てる力をすべて出し尽くしての敗戦に、棚橋は「オカダは強い。完全な世代交代を成し遂げられてしまったので、ボクの去就が気になります」と独特の表現でショックを隠さなかった≫(東スポWeb 1月5日)

 オカダ時代到来の気配。いや、だからこそ棚橋なのである。プロレス者は勝者も讃えるが、それ以上に敗者の側に感情を移入する。ここからどう生きる姿をみせてくれるのか。どう考えても棚橋に注目ではないか。芸能ニュースではSMAPをめぐる報道が騒動になったが、プロレス者なら中居君に注目してしまうのと同じ論理である。

 棚橋はオカダに負けたことでフリーハンドを「得てしまった」と私は思う。これは大きい。新日本プロレス復興のために今まで先頭に立って世間の風に当たってきたが、ここでちょっと自由な立場を獲得したと言えまいか。

 ちょうど1年前、私は棚橋弘至とトークする機会をもらった。そこで「棚橋さんは常々、自分を入り口にしてプロレスを好きになって中邑やオカダのファンになってくれればいい。自分は礎でいいと言っていますが今もそう思っていますか」と尋ねてみた。そのときは1・4でオカダに完勝し、あの勝ちっぷりでも礎なのかと思ったからだ。

 棚橋は「あの発言はちょっと今は後悔してますね」と茶目っ気たっぷりに答えたのだ。でも本音だろう。まだまだオレは誰よりもいける。そんな野心を感じた。プロレスファンは野心家が大好きである。

 1年たって、あのときの言葉はさらに重要なものに思えるのだ。棚橋弘至が野心全開で新たに「挑む」ことになったら。その姿や心の内を想像すると興味津々なのである。

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