ずいぶん前から楽しみにしていた映画の情報が発表された。作品のテーマは『真実とは何か。虚偽とは何か』。

《作曲家の新垣隆氏(45)をゴーストライターとして起用しながら、聴覚障害者の作曲家として活動していた佐村河内守氏(52)の素顔に迫ったドキュメンタリー映画『FAKE』(森達也監督)が劇場公開されることが8日、分かった。6月4日から東京・渋谷のユーロスペースで上映される。》(スポーツ報知・3月9日)

 森達也監督のコメントを読むと「さまざまな解釈と視点があるからこそ、この世界は自由で豊かで素晴らしい」と言っている。作品をどう解釈するかは見る人に委ねたいとしている。ああ、これぞ「プロレス者」ではないか。実際、森達也は雑誌「週刊ファイト」の面接を受けたほどのプロレスファンでもある。『悪役レスラーは笑う』という著作もある。

 森達也氏のこれまでの作品をみても、世の中の大多数がひとつの見方にダーッと流れるとき、少数の反対側のほうが気になる人なんだと思う。「世の中が疑わない大きなもの」をまず疑うと言ったほうがよいか。

 プロレスファンの特性のひとつとして、ひとつの試合をいろんな角度から考えたり、情報を集めて楽しんだりする。座る席によってリングの見え方はちがうように、「真実らしきもの」はその人の角度や立場によっても見方が異なる。森達也はプロレスの見方、楽しみ方を本業で実践しているのかもしれない。そういえば『森達也 青木理の反メディア論』という対談本を読んだ(現代書館)。この本が発売される前、ラジオ番組の本番前に青木理さんと話したらこんなことを言っていた。。

「こないだ森達也さんと対談したんだけど、あの人、なんでもプロレスで例えるんだよ」と。

 ちなみに青木理さんはまったくプロレスには関心がない。私は想像して笑ってしまった。青木理の前で粛々とプロレス語りしてる森達也を。発売後に本をチェックしてみると、あったあった。

森達也「それをプロレス用語で『噛ませ犬』といいます」
青木理「『噛ませ犬』ってプロレス用語なんですか」
森達也「長く日の当たらなかった長州力が藤波辰彌に『俺はお前の噛ませ犬じゃない』と叫んで藤波を平手打ちした」
青木理「まったく興味のない分野なので話を戻すと(笑)」

 素晴らしい絡みだ。このほか「テレビが許容する言論の自由」という項では、

森達也「でもプロレスには『セメント』が混じります」
青木理「プロレスかどうか知らないけど(笑)」

 最高ではないか。このあと青木さんに「本読みましたけど、もっとプロレス例えはあったんですか?」と聞いたら、「たくさんあったよ」と苦笑いしていた。これほどまでのプロレス者である森達也氏がつくったドキュメンタリー映画。さまざまな解釈と視点を与えてくれるだろう。早く観たい。

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