先発ピッチャーにとって、規定投球回数に達した上での勝率10割は究極の夢だろう。

 28試合に登板し、24勝0敗、防御率1.27。現在はヤンキースで活躍する田中将大が、東北楽天での最後のシーズンとなった2013年に残した成績だ。これを上回る成績を残すピッチャーはしばらく現れないだろう。

 田中の前に前述の条件をクリアした選手と言えば、日本ハムの間柴茂有が思い出される。1981年に15勝0敗、防御率3.46の好成績で最高勝率投手に輝いた。大洋時代には、どこにでもいる凡庸なサウスポーだった間柴が、なぜ日本ハムに移籍してから化けたのか。それは“まっスラ”と呼ばれるオンリーワンの武器に磨きをかけたからだ。

 まっスラとは、真っすぐとスライダーをかけ合わせた造語。変化の仕方は今でいうカットボールに近い。バッターは真っすぐのタイミングで待つ。「来た!」と判断してスイングに移行した瞬間、ボールひとつ、いや半分ほど食い込んでくるのだ。調子のいい日には、この“魔球”で右打者からおもしろいようにゴロの山を築いた。

 聞くところによると間柴は大洋時代からまっスラを投げていたらしい。だが、まだ完成度は低く、日本ハムに移籍してから精度を上げた。パ・リーグのバッターには馴じみのないボールだったことも幸いした。

 昨オフ、日本ハムから巨人に移籍した吉川光夫には“間柴2世”の趣がある。2012年には14勝5敗、防御率1.71の好成績で最優秀防御率投手に輝いたことのある実力派だ。だが制球に難があり安定感を欠いていた。

 吉川にも独自の武器がある。落差のあるパワーカーブだ。「球が走っている日は、このボールが生きてくる。緩急を付けられると対応ができない」と、あるパ・リーグの主力打者は語っていた。昔と違って交流戦があるとはいえ、間柴のまっスラ同様、セ・リーグのバッターは手こずるのではないか。実績のある左腕だけに、他球団は要注意である。

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