朝ドラ『ひよっこ』沢村一樹の登場シーンに見る脚本の妙!の画像
朝ドラ『ひよっこ』沢村一樹の登場シーンに見る脚本の妙!の画像

 NHK連続テレビ小説『ひよっこ』は、7月3日の放送回より後半戦に突入。谷田部みね子(有村架純・24)をはじめとする登場人物がいきいきと描かれているおかげか、ここにきて視聴率20%超えを連発中だ。物語も半分を迎えたところで、あらためて脚本家である岡田惠和氏(58)の仕事の巧みさに驚かされている。

 今回はちょうど折り返しとなった7月3日、第79話で岡田脚本の妙味を考えてみたい。この回は、みね子(有村)の叔父、小祝宗男(峯田和伸・39)がビートルズ目当てに上京した、先週の放送からの続きだ。

 あかね荘の若者たちとも、なぜかすっかりなじんでいる宗男(峯田)。すずふり亭では毎日ハヤシライスに舌鼓を打ち、すずふり亭の面々ともすっかり仲良しになっていた。そしてビートルズがついに来日。あかね坂商店街の人々は広場に集まっていた。柏木一郎(三宅裕司・66)が営む和菓子店、柏木堂の手伝いで、ビートルズ公演の警備員用弁当の赤飯を作るためだ。宗男(峯田)たちもこれに加わり、赤飯作りがにぎやかに始まった。

 岡田惠和氏は小さなコミュニティのワイワイとした雰囲気を描くのが実にうまい。この放送回では商店街の人々や、あかね荘の住人がゾロゾロ集まってくる様子だけでドキドキさせられた。いかにも朝ドラというなごやかさがお見事だったが、岡田脚本がすごいのは、ただの“ワイワイ”で終わらないということ。この放送回では宗男(峯田)がうなされたり、戦争に行った過去に触れるシーンにも焦点が当てられていた。シリアスなテーマが通奏低音としてしっかり響いていて、なごやかなシーンにも奥行きを持たせているのだ。

 つまりポジティブな要素とネガティブな要素のブレンドが絶妙で、これにより視聴者は登場人物の複雑な感情を自然に共感できる。『ちゅらさん』や『おひさま』と過去に岡田氏が手がけた朝ドラもそうだが、この巧みさは岡田脚本のヒットドラマ『最後から二番目の恋』(フジテレビ系)、『泣くな、はらちゃん』(日本テレビ系)にも共通するところ。ハートウォーミングさと、独特の物悲しさの同居という岡田の得意技は『ひよっこ』でも随所に見られ、視聴者の心をわしづかみにしている。

 また細かいことだが、この回では長く登場していない、みね子(有村)の父、谷田部実(沢村一樹・49)のシーンがあったこともサプライズだった。熟睡している宗男(峯田)を見て、みね子(有村)が昔を思い出すシーンだったが、オープニングのキャスト紹介の沢村のクレジットには「(回想)」の文字はなし。つまりこのシーンは過去シーンの流用ではなく、このために撮ったものなのだ。茨城編の撮影時に、東京編で放送されるこのわずか数秒のシーンが撮られていたことになる。岡田にとって『ひよっこ』は3度目の朝ドラ脚本なので、このような演出も朝めし前なのだろうが、朝ドラ批評家としてはグッとくるシーンだった。

 放送は残り半分となってしまったが、『ひよっこ』は加速度的に面白くなっていくはず。さえわたる岡田惠和氏の脚本は、これからも泣いたり笑ったり、たっぷり楽しませてくれるだろう。

朝ドラ批評家半澤の朝ドラブログ
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