「土俵の充実」とは、日本相撲協会前理事長である元横綱・北の湖(故人)が口を酸っぱくして言っていた言葉だ。

 土俵の充実のためには、足場から変えていく。さる8月29日、相撲協会の尾車事業部長(元大関・琴風)は、国技館の土俵に使われている荒木田土を地方場所でも使用することを明らかにした。11月の九州場所からになる見通し。

 広辞苑によれば、荒木田土とは〈東京都荒川沿岸の荒木田原に産した土。また、沖積地や水田などにある粘着力の強い土の呼称。荒壁や瓦葺下、園芸などに用いる〉とのこと。特色としては粘土質で保水性に優れていることがあげられる。

 現在は荒川区ではなく埼玉県川越市で採取したものを使用している。これを国技館までトラックで運んでいるそうだ。

 国技館で行われる1月、5月、9月場所に比べ、3月の大阪場所、7月の名古屋場所、11月の九州場所は、「土俵が滑りやすい」と言われる。

 わけても3月の大阪は波乱が多く、「荒れる春場所」とも呼ばれる。平成12年には引退覚悟の貴闘力が史上初の幕尻優勝を果たしている。大阪をはじめ、地方場所の土が滑りやすいというのは本当か。貴闘力に聞いてみた。

「あれは本当ですね。やはり荒木田土じゃないからでしょう。場所も後半に入ると、氷の上に砂が乗っているんじゃないかと思うくらい滑る。“もっと水入れて! 砂足して!”という感じですよ。でも僕はその方がよかった。滑ってもバランスを崩さないトレーニングを普段からやっていましたから。逆に言えば、ちょっと滑ったくらいで負けるのは足腰が弱い証拠ですよ」

 今回、協会が土俵の土を統一した背景には「ケガ防止」があげられる。「二度と滑ったと言うなよ」と尾車親方。一方で「小兵や業師が巨漢力士に勝つチャンスが少なくなる」と否定的にとらえる向きもある。さて結果は、どちらに出るのか。まずは九州場所に注目だ。

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