熟年離婚で幸せになれるのは、妻と夫どっち!?の画像
熟年離婚で幸せになれるのは、妻と夫どっち!?の画像

「熟年離婚」という言葉が一般に認知されるようになったのは、2005年放送のドラマ『熟年離婚』(テレビ朝日系)がきっかけだった。団塊の世代(1947年から49年生まれ)が定年退職を迎える時期での、夫婦のあり方を描いて高視聴率を獲得した。

 熟年離婚とは、長年連れ添った末に別れを決意する、夫婦の離婚を指す。ドラマから早12年。今も熟年離婚増加の流れは続いているのか? さまざまなケースから、結婚生活を続けるのと解消するのでは、どちらが幸せなのかを検証しよう。

「熟年離婚」は増え続けているのか?

 ドラマ『熟年離婚』の放送以前から、熟年離婚はジワジワと増えていた。1960年には0.74%だった日本人全体の離婚率は、徐々に上昇。しかし、2002年に2.3%でピークを迎えてからは、現在まで年々減少し続けている。一方、婚姻期間20年以上の夫婦の離婚件数は、同じく2002年にピークを迎えてやや減少したが、2000年代後半から横ばい状態が続いていて、1990年の約2倍の水準で落ち着いている。(三菱UFJリサーチ&コンサルティング:定着する中高年の離婚2015年版を参照)

 全体の離婚率は減少する中で、熟年層の離婚件数は横ばい。相対的に見れば、「熟年離婚の割合は増えている」といえるだろう。

ドラマ『熟年離婚』はこんな内容だった

 60歳で定年を迎えた幸太郎(渡哲也)は、子どもたちがセッティングしてくれた退職祝いの席で、妻の洋子(松坂慶子)から予期せず離婚を宣言される。幸太郎にとっては晴天の霹靂。しかし、この騒動をきっかけに、それまでいかに家庭を顧(かえり)みていなかったか、妻のことを理解していなかったかに気づくいていく。周囲を巻き込んでの離婚劇の末、洋子は仕事を見つけ、幸太郎は国際ボランティアへ。和解してそれぞれ第2の人生を歩み始めた。

熟年離婚に多い原因5つ

 長い間連れ添ったのに、離婚を考える理由や原因はどんなところにあるのだろう。何年も毎日顔を合わせていれば、嫌気が差す気持ちは想像がつかなくもないが、リアルな声を聞いてみよう。

価値観の不一致

 年代問わず、離婚理由の上位にランクイン。性格や生活習慣の違いによるストレス、蓄積した不満。熟年の場合は積もり積もっているのだから、若い世代よりも断然根が深いようだ。

「話を聞いてほしいが会話がない」(会社員・63歳)、「退職して、これからずっと家にいるのかと思うと精神的に苦痛」(専業主婦・63歳)、「何の意欲もなく、毎日ゴロゴロしている妻の姿にイライラする」(土木業・49歳)、「姑が亡くなるまで毎日いびられていたのに、一切かばってくれなかった」(専業主婦・57歳)

異性問題

 長年、相手の浮気に耐えてきたパターンや、退職などを機にタガが外れて若い異性に走るパターンなどもある。2013年に相模ゴム工業が行った調査によると、40代で浮気をしている男性の割合は14.3%なのに対し、女性は17.9%。浮気をするのは男性というイメージがあるが、実際は妻の浮気が離婚の原因になることも多い。

「ずっと外に女がいるのを知っていたので、たっぷり慰謝料を請求したい」(専業主婦・66歳)、「妻の浮気ぐせが直らない」(会社員・60歳)、「若い女性がいい」(無職・67歳)、「好きな人ができた」(パート・55歳)

暴力

 いわゆるDV(ドメスティック・バイオレンス)。配偶者からの肉体的暴力に耐えてきたが、子供が巣立つと同時に、離婚を切り出す例は多い。また近年、暴言がモラハラ(モラル・ハラスメント)として認知されたことで、「ウチのケースも該当する」と気づく人も増えた。

「長年夫から叩かれるなど暴力を受けてきた。退職してこれ以上長い時間一緒にいるとなると身の危険を感じる」(パート・63歳)、「妻の言葉の暴力に耐えられない」(警備員・59歳)、「誰のおかげでメシを食ってる、ブタ、などと言われるのはモラハラ」(専業主婦・56歳)

金銭問題

 借金、ギャンブル、浪費、ケチなど人間性が露呈してしまうのがお金の話。そんな悪癖がなくとも、収入がなくなったら「金の切れ目が縁の切れ目」になってしまうかも!?

「妻がパチンコで繰り返し借金を作る」(会社員・67歳)、「夫に結構な額の借金、というか連帯保証人になっていたことが発覚した」(専業主婦・64歳)、「年金生活が始まるのに、妻の浪費ぐせが心配でしかたない」(運送業・60歳)、「十分な生活費を渡されてこなかった」(専業主婦・66歳)、「老後は旅行したいが、相手がケチだからつまらない」(パート・64歳)

介護問題

 高齢者になると、周囲はもちろん、自分自身の介護についても気になってくる。介護に付随するお金の問題や不公平感は、夫婦関係のこじれを招く。家庭内で女性が介護を担ってきた団塊世代では、妻のほうがより介護への不満を抱えている。また、相手の介護が始まる前に離婚してしまおうという人もいるようだ。

「義理の両親の介護をずっと押しつけられているので、夫を許せない」(専業主婦・48歳)、「夫の介護は絶対にしたくない」(パート・65歳)、「親を介護してくれたが、母につらく当たっていたので、信用できない」(会社員・62歳)

3大熟年離婚芸能人の別れた理由

 おしどり夫婦と言われて久しかったのに、別れてしまったスターたち。実際の離婚原因は、裏事情はどんなものだったのだろう。

・片岡鶴太郎/妻

 30年別居していたが、62歳になった2017年に、38年間の結婚生活に終止符を打った。絵画やハードなヨガにのめり込む鶴太郎と、飲食業を営む妻。3人の子供たちが独立したのを機に、それぞれ別の道を歩むことで合意したようだ。価値観の違いかと思われる。

・森進一/森昌子

 1986年に結婚。引退していた森昌子が2001年に紅白歌合戦へ出場した頃から、森進一が持ちかけ、夫婦共演のジョイントコンサートを行うようになる。しかし、家事、育児と仕事の両立から昌子が心身の不調を訴え、気づけばふたりの間には埋めがたい溝が。2005年に、19年間の夫婦生活は幕を閉じた。

・坂本龍一/矢野顕子

 1982年にお互いにバツイチで再婚。結婚前の1980年に娘の坂本美雨が生まれた。1990年頃から坂本龍一はマネージャーの愛人女性と暮らしはじめ、男児が生まれた。ようやく2001年から調停に入り、結婚から24年が経った2006年に、坂本54歳、矢野51歳で離婚が成立。

女性と男性、三行半はどっちから!?

 ドラマ『熟年離婚』では、夫が妻から三行半を突きつけられる設定だった。世間でも、子育てが手を離れると同時に妻が出て行くパターンが多いとされてきた。しかし仕事人間の夫に妻が見切りをつける、というステレオタイプは減っている。最近では、専業主婦の座にあぐらをかき、家事を放棄する妻に夫が耐えられなくなった、という理由も。近年は女性も仕事を持つことが多くなり、仕事は夫、家庭は妻、といった役割分担のボーダーが薄れつつある。

幸せ? 後悔? 熟年離婚メリットとデメリット

 いざ熟年離婚に踏み切ったものの、老後の生活はどうなるのだろうか? 多くの場合は何十年ぶりかの一人暮らしをスタートすることになる。せいせいする一方、若かった頃とは違う熟年なりの憂いや孤独感も大きくなる。熟年離婚のメリットとデメリットを男女別に整理してみよう。

・男性のメリット

 仕事が現役であれば、とりあえずお金には困らない。どんなに自堕落な生活をしても、文句を言われることはなくなる。趣味に没頭して老後を過ごす独身貴族もいる。

・男性のデメリット

 それまでまったく家庭に興味がなかった場合、生活がすさむ可能性が。また、近所づきあいがないと、退職後の人間関係が希薄になってしまう。寂しさを紛らわすために、夜の女性にお金をつぎ込んでしまう可能性もあるので、注意が必要だ。

・女性のメリット

 自由な時間を持てるようになり、精神的に解放される。家族に合わせて行動する必要がなくなり、新しい出会いも期待できる。

・女性のデメリット

 最大の問題はお金。特に専業主婦だった場合、年齢が上がると仕事を見つけるハードルも上がる。離婚後、生活費が立ちいかなくなり、子供や親戚に助けを乞うケースもあり。離婚に踏み切る前に、仕事を持つ算段をつけておくことが大切だ。

熟年の再婚事情

 最も再婚している世代は30歳代。年齢が上がるとともに、再婚率は減ってゆく。新たな伴侶を得てやり直したいなら、早ければ早いほうがよいというのが現実だ。

 しかし、希望もある。40歳から44歳の再婚率は1990年で2.47%だったが、2013年は3.73%に。45歳から49歳の再婚率は1990年では1.79%だったが、2013年には2.70%に増加している。また、全世代の男女別再婚率は、男性が1.84%、女性は1.47%。若干だが、男性のほうが離婚後、再婚する割合が多くなっている。(国立社会保障・人口問題研究所:人口統計資料集2015年版より)

熟年離婚とお金のハナシ

 真剣に離婚するなら、お金のことは避けて通れない。財産の分け前はキッチリ獲得し、老後に備えたいのが本音だろう。

・離婚費用

 離婚話がこじれた場合、裁判になるケースもある。書類の作成や手続きは素人には難しいので、弁護士など専門家に依頼すると一般的に50万円から100万円の費用がかかる。離婚が決まるまで半年から3年ほどかかることもあるため、蓄えが必要。

・慰謝料

 裁判で慰謝料を受け取れるケースは相手に「浮気や不倫」「DV」「悪意の遺棄」などの行為が認められた場合。悪意の遺棄とは、夫が生活費を渡さなかったり、定職につかなかったり、専業主婦の妻が家事をしなかった場合や、相手が家を出て同居をしなかった場合などに認められる。慰謝料の相場は50万円から300万円程度だ。

・年金

 2008年に整備された「年金分割制度」によって、離婚した日の翌日から2年以内に条件をそろえて申請すれば、婚姻期間中に納めた厚生年金を分割できるようになった。もちろん、年金を受け取れる年齢になってからの話だ。

・財産分与

 離婚する際に財産を夫婦で分割するのが財産分与。婚姻期間中に夫婦で築いた財産だと認められれば、預貯金、給与、退職金、年金、有価証券、不動産、退職金、家具や家電などが対象となる。

・生活費

 65歳以上の一人暮らしにおける1か月の平均支出は14.9万円。年金など社会保障の給付額がだいたい11万円。家賃や持病の有無も考慮したいが、3〜4万円ほど毎月不足する計算になる。(総務省:家計調査年報2016年度版より)

・介護費用

 40歳以降、月々の介護保険料を支払っていれば、65歳を過ぎて介護が必要になったときに介護サービスを数割負担で利用できる。介護も医療も、けっしてタダで利用できるわけではない。75歳を過ぎると急激に要介護になる可能性が高まるので、蓄えがないと切実。

泣かないためにしておくべき4つの準備

 年齢的にも、勢いだけで離婚に踏み切るのは危険。自立して老後を過ごすために、熟年だからこそ入念な準備がマスト!

・貯蓄

 一人暮らしになっても困らないように、自分名義の貯蓄を!

・証拠集め

 相手に不貞、DV、悪意の遺棄などの行為があれば、慰謝料を請求することが可能。離婚調停や裁判の際、記憶だけでは証拠として弱い。日記や写真、動画、音声データなどで残しておこう。

・住む場所の算段

 持ち家なら、どちらが居座るのか、または処分するのかを調整しなくてはならない。ローンの有無も含め、不動産の財産分与にも関わる。賃貸住宅に一人暮らしをすることになるなら、早めから物件の情報収集を。

・周囲とのコミュニケーション

 愛情が冷めたとはいえ、ずっと側にいた人間がいなくなるのは寂しいもの。孤独感に陥らぬよう、家族や友人からの理解やサポートを求めたい。信頼できる人には離婚の相談をしておこう。

まとめ

 離婚後の生活を考えると、別れるなら早いほうがいい。再婚も含めて、やり直す選択肢や可能性が多く残されている。熟年になって別れるのなら、思いつきではなく時間をかけて、特にお金の算段をして行動に移すべき。熟年離婚の流行に乗ってみたものの、惨めな老後を送ることになっては、結局、損をしてしまうかもしれない。

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