※画像は映画『華氏119』公式サイトより
※画像は映画『華氏119』公式サイトより

 過激なアポなし取材と挑発的なパフォーマンスで知られるドキュメンタリー映画の巨匠が次なる標的に選んだのは米国、ドナルド・トランプ大統領だった。

 アメリカの銃社会に疑問を投げかけた『ボウリング・フォー・コロンバイン』(2002年)、ブッシュ政権を批判した『華氏911』(2004年)、医療問題に鋭いメスを入れた『シッコ』(2007年)に続き、11月2日から公開が始まった新作『華氏119』でマイケル・ムーア監督が描いたのは、「アメリカ・ファースト」を掲げて社会を分断し、セクハラ、差別発言などスキャンダルまみれのアメリカ大統領と、その大統領を生んだアメリカ社会だ。

 丹念な取材映像とニュース映像、ムーア監督のナレーションで構成される同作だが、中でも圧巻なのが、ナチスのヒトラーの演説に、実際のトランプ大統領の言葉を“アテレコ”するシーンだ。

「人は彼をヒトラーとは比較しきれないと言って歴史を顧みない。だが私は完全な比較などないと考えている」(本編字幕)

 ドイツがナチスによる独裁に至った歴史の研究家であるテモシー・スナイダー教授の言葉を借りながら、ムーア監督のナレーションによって、ナチスとトランプ政権の類似性が次々と指摘されていくのだ。

 1932年11月、ドイツ国民はあるオーストリア移民を国のリーダーに選んだ。アドルフ・ヒトラーだ。政治経験のなかったヒトラーはそれまでの既存の政治家とは違って率直に物を言って実に新鮮だった。「ドイツ・ファースト」を掲げ、完全雇用の保証をうたい、道路やインフラを整備した。 

 まさに「アメリカ・ファースト」を掲げて、企業の国内回帰と雇用の創出を目指す現在のトランプ氏とオーバーラップする。

「共同体が専制に傾くとき、礼儀に欠け人種差別をする一団が台頭する」(本編字幕)

 映画では字幕とともに、白人が黒人や移民を口汚く罵る姿を写した映像がいくつも流れる。

「本屋や新聞やラジオが統制されたら、大衆は支配者の望むものを読み受け入れるだろう」(本編字幕)

 国内メディアを統制し、嘘のニュースを流させたヒトラーと、自分に都合の悪い既存メディアのニュースを「フェイクニュース」とブッた斬るトランプ氏の手法が重なる。

 さらにムーア監督は、ヒトラーが首相就任して数週間後に発生したテロ事件を取り上げる。

 1933年2月27日、ドイツ国会議事堂に何者かが火を放った。このテロ行為が非常時の政治を発動させた。この火事に政治的な好機を見出したヒトラーはすべてのドイツ国民の基本的人権を停止する布告を出し、警察が国民を予防拘留できるようになった。独裁政権の始まりである。ヒトラーはさらに。このテロ行為のすべてを共産党のせいにし、共産党は活動禁止に。リベラル派は完全に抑え込まれ、民衆はアドルフ・ヒトラーの全権掌握を支持した。

 この歴史上の出来事と対比して、トランプ氏が戦争や災害など、緊急事態を口実に民主的な選挙を廃止して、専制政治に走る危険性をムーア監督は指摘している。

 トランプ氏が「21世紀のヒトラー」になる可能性はーー。

 その答えは、今を生きるアメリカ国民が握っている。現代にヒトラーを蘇らせないために何ができるかをアメリカ国民は考えるべきだと叫んでいるのだ。

 アメリカ社会に鳴らす警鐘は国民に届くのか、中間選挙の行方とともに、トランプ氏の残りの任期を見守りたい。

※画像は映画『華氏119』公式サイトより

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