千眼美子(清水富美加)
千眼美子(清水富美加)

 皆さん今日は! 映画コラムニストの中井仲蔵です。今回は、宗教法人『幸福の科学』の大川隆法総裁が、原案・製作総指揮を務めた映画『僕の彼女は魔法使い』を観て参りました。

 清水富美加改め千眼美子が主演するこの作品は、公開週の週末観客動員数(2019年2月22~23日)で、なんと3位につける好成績を収めたにもかかわらず、まともなメディアにはガン無視されるという仕打ちにあっています。

 いわゆる「プロバガンダ映画」なので、黙殺されるのも当然といえば当然なのですが、プロパガンダ映画をナメてはいけません。ミュージカルの傑作として名高い『サウンド・オブ・ミュージック』も、あるいは「君の瞳に乾杯」の名台詞で知られる『カサブランカ』も、れっきとしたプロパガンダ映画なのです(そうウィキペディアに書いてありました)。

 さらに、この作品の原案・製作総指揮を手がけた、『幸福の科学』総裁の大川隆法氏は、同団体のホームページによると、普段から、

〈霊界に存在する霊人の考えや思いを、著者の肉声を通して明らかにする(中略)。また、現在生きている人の守護霊を招き、その人の潜在意識を訊きだすこともできる〉

 という能力の持ち主だそうです。実際にその能力によって執筆された「公開霊言」シリーズ(幸福の科学出版)では、項羽と劉邦から広瀬すずに至るまで、さまざまな偉人の霊言がまとめられた本が、500冊近く販売されています。

 もしかしたら、霊人になったヒッチコックやキューブリックや黒澤明などの巨匠たちが、製作スタッフにアドバイスしているかもしれません。

『僕の彼女は魔法使い』だって、もしかしたら、スゴい傑作なのかも……いったいどんな映画なのでしょうか。好奇心を抑えきれず、この目で確かめて参りました。

 さて、実際に上映館を探してみると、この作品は日活で配給されていることもあり、ざっと数えたら東京だけでも16軒の映画館で上映されているのが判明しました。かなりの大規模ロードショウです。映画館がある街だとたいていのところで上映されていると言っていいでしょう。

 ぼくが観たのは、都内ジャンクション駅の映画館で、公開翌週の土曜日の最終回だったのですが、観客はまずまずの入りでした。座席は半分くらい埋まってます。

 モギリのお兄さんに聞いたところ、「8割くらいは前売り券のお客さん」だとか。つまり、「暇だったからなんとなくプラッと入った」という観客はほとんどおらず、多くは公開前から、「観るぞーっ」と決心をして、映画館にやって来たといたということです。

 考えてみれば、「前売り券」というのは、期限が過ぎると一気に価値がなくなってしまう有価証券です。上映終了後で商品(サービス)と交換したくても、紙くずになっちゃってるわけです。よくは知りませんが、映画をプロデュースする立場の人々にしたら、何かと都合のいいことがあるんでしょうね、きっと。

 その回の上映に来ていた観客は、老若男女さまざまでしたが、強いて他の映画の観客と比べるなら、とても礼儀正しい人が多かったように思います。あくまでも印象ですが。

 さて、肝心の映画のほうはといいますと、主人公の少年(梅崎快人)が通う高校に、千眼美子扮する転校生がやって来るところから始まります。この転校生というのが実は魔法使いで、さらには〈世界で最後の“白魔術の継承者”〉だったりします。

 魔法を他人のために使おうとするこの白魔術の一派に反するのが、能力を自分のためだけに使おうとする「黒魔術」の連中で、やがてこの2派のいさかいは〈時空を超えた戦い〉にまで発展するのです。

 前売り券を握りしめ、これからこの映画を観るのを楽しみにしている人もまだいらっしゃると思いますので、これ以上詳しい内容は省略しますが、はっきり言ってこの作品は、なんといいますか、決して傑作ではありません。いやむしろ、その逆の出来と言いますか、少なくとも映画としてみたらかなりクオリティは低いです。

 清純な女子高生に扮した千眼美子の濃い化粧から始まり、とても現代の日本で書かれたとは思えないリアリティに欠けたセリフまわし、『スター・ウォーズ』や『ハリー・ポッター』シリーズなどからのユル~いパクリにくわえ、使用料1時間2万円のハウススタジオで家具などの備品を傷つけないよう最新の注意を払いながら撮影されたと思しきアクションシーンや、「ほぼ静止画」というレベルのCGなどが、その理由です。

 察するに、予算も時間も才能も乏しい中で、制約だけはふんだんにあったんでしょうかね。少なくとも、ヒッチコックやキューブリックや黒澤明の霊は召喚できなかったようでした。

 映画を観て意外だったのが、プロパガンダ映画だと思って身構えていたのに、独自の主張があまりなされていないこと。たとえば、大川隆法総裁が2009年に立党した政治団体『幸福実現党』のホームページでは、

〈国民の生命・安全・財産を守るために憲法9条を改正し、防衛軍を組織します〉

〈自衛のための核装備を進めます〉

〈防衛費を現状の2倍以上に引き上げ、10年以上はこの体制を維持します〉

 などなど、けっこうエッジの効いた政策が書かれていますが、この『僕の彼女は魔法使い』では、「利己的になってはいけません」とか「人を妬んではいけません」という、普遍的なテーマしか受け取れませんでした。

「カルト映画」なんだから、そこはもうちょっと、ハッキリとしたオリジナリティというか個性というか、何も知らない異教徒がビックリして座り小便してしまうような、パンチの効いたテーマを打ち出してもらいたかったものです。

 とはいえ、ぼくのような門外漢は上記のような感想を抱きましたが、もしかしたら修行を重ねて徳を積んだ方は、何か強烈なメッセージを受信できるようになるのかもしれませんけどね。

 そう考えると、主人公が読んでいる『錬金術とヘルメス文書』という(架空の)書籍、千眼美子がぶら下げている「アスクレピオスの杖」みたいな形のペンダントなどの小道具も、ダサく見えるのは目くらましで、実際に観る人が観たら何か意味があるのかも。

 また、物語で重要な位置を占める主題歌『Hold Me』(作詞・作曲=大川隆法、歌=大川咲也加)も、「ずいぶん古臭い曲調の、ヘンな歌だなぁ」と思って聞いていましたが、あの浮世離れした妙な感じも、「隠されたメッセージ」だとしたら理解もできました。もっと徳を積んだら本当の意味が分かるのでしょう。

 などと書いていると、「作品をけなしている」と誤解なさる人もいるかもしれませんね。

 日本では信教の自由は保障されており、この記事も、個人および特定の団体をどうこうする意図はありません。『僕の彼女は魔法使い』にだって、いいところはいくつもありましたよ。

 たとえば、照明と撮影。スタッフがいい仕事をしていたので、暗い部屋のシーンでも登場人物がしっかり判別できていました。今、ちょっと他のいいところは思いつきませんが、とりあえずそこは良かったです。

 これからご覧になる方は、ぜひそこに注目していただきたいと思います。


おすすめ度 ★☆☆☆☆
意味深度  ★★★☆☆
公開館数  ★★★★★

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