ドキュメンタリー映画監督 松江哲明
アイドル映画評「アイドル映画って何だ?」vol.5
ドキュメンタリー映画監督の松江哲明氏が、アイドル映画を評論し……、というか、アイドル映画ってそもそもどういった作品のことを指すのか? という再定義を目指す連載。第5回は、同時代性を帯びた怪獣映画の傑作『シン・ゴジラ』です。果たして、松江監督は本作にどんな“アイドル映画的なもの”を見出したのか。
『シン・ゴジラ』のキャッチコピーは「現実(ニッポン)VS虚構(ゴジラ)」。最初聞いた時は「なんと意味深な」と思ったが、今となっては実に的確だったと断言できる。内容だけでなく、展開も現実と虚構が入り交じる、まさにVSのような展開となったからだ。実際、映画では東京駅で凍結されたゴジラだったが、現実には日比谷シャンテ前に置かれていた旧ゴジラ像と入れ替わり、新ゴジラ像となったではないか。
私は人々が見上げ、称える「偶像」という意味で、この『シン・ゴジラ』をアイドルと捉えたい。
試写も行われず、事前に本作にかかわる情報が一切漏れないようにされていた本作は、公開後、観客の熱狂によって広がり、作品力こそが最大の宣伝となることを実証した。スクリーンで東京を破壊し、吼える姿は期待以上のゴジラで、上映時間が進む度に魅了されたのは私だけではないはずだ。
そして圧倒的な情報量と、一回見ただけでは追いつけないほどの台詞とテロップのスピード感。だからこそ私も脳をフル活用してスクリーンと向き合わざるを得なかった。そして、その「運動」の何とも気持ちのいいことか。現実味ある描写に震災の記憶が思い出される一方で、CGであることを隠さないキュートな姿で蒲田を爆走する第2形態にも驚かされたが、あのプレビズのようなクオリティは、完璧を求めるハリウッドに対する痛烈な批判だったと思う。
しかし、国内での熱狂に対し、海外で上映された際に聞こえてきた声は、良くも悪くも『ゴジラ』という枠に収まったものだった。しかし、それこそが本作が唯一無二だったという証拠ではないだろうか。3.11を体験していない国に本作のリアリティは伝わり難いだろう。私たちは『シン・ゴジラ』を通して映画鑑賞と同時に、現実を元にしたシュミレーションを体験していたのだから。
2011年から5年経ったからこそ作ることが出来た本作は、この国と時代を象徴する「偶像」となった。
※プレビズ…映画製作の準備段階において、従来の絵コンテに相当する各カットの画面構成などを、簡単なコンピューターグラフィックスで映像化したもの。(「デジタル大辞泉」より)
あらすじ
庵野秀明が総監督・脚本を手掛けた12年ぶりの日本版『ゴジラ』。突如として出現した巨大不明生物・ゴジラと対峙する日本の姿を、リアリティを追求したストーリーとドキュメンタリータッチの演出で描き出す。(「キネマ旬報社」データベースより)
監督/庵野秀明(総監督)、樋口真嗣(監督・特技監督)
脚本/庵野秀明
出演者/長谷川博己、竹野内豊、石原さとみ、他
※画像は『シン・ゴジラ』DVD2枚組より
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