カルト映画『ザ・オーディション』を松江哲明監督が語る!の画像
※画像は『ザ・オーディション』(VHS)より

ドキュメンタリー映画監督 松江哲明
アイドル映画評「アイドル映画って何だ?」vol.6

 ドキュメンタリー映画監督の松江哲明氏が、アイドル映画を評論し……、というか、アイドル映画ってそもそもどういった作品のことを指すのか? という再定義を目指す連載。第6回は、DVDにすらなっていないカルト映画『ザ・オーディション』です。その後に「大人のせい」で解散に追い込まれた彼女たちは、デビュー作で何を表現していたのか。

 90年代は出来の悪い映画や変わった映画、または名作とされる映画を斜め目線で揶揄するという文化があって、私は「こんな見方もありなのか!」と、その潮流に強く影響を受けた。

『ザ・オーディション』はそんなダメな映画としてよくタイトルが挙っていたものの、VHSでしか観られないので、悪評しか知らない人も多いだろう。私もそうだった。しかし、実際に観てみると「それは違う」と思ったのだ。

 確かに80年代特有のこっぱずかしさはあるが(ホコ天で踊る少女がスカウトされた際「名前は?」と聞かれると「ノーバディ」と答えた演出は今も忘れられない)、作り手の真剣さは伝わって来る。

 世良公則扮する元歌手のマネージャーがセイントフォーと共に、大手プロダクションに負けじと芸能界で戦うこの物語を監督したのは、今村昌平組出身の新庄卓。そして撮影を『楢山節考』の栃沢正夫が担い、編集は『黒い雨』の岡安肇。イマムラ組を支えた面々がオーディションという題材を描くとならば、結果の決まったコンテスト、大手事務所の癒着、妨害工作といった芸能界の闇を隠さないわけがない。そしてアクロバティックなセイントフォーのパフォーマンスも、牽引なしで高速道を運転する世良公則も、中尾彬の厭味たっぷりな社長も全てがガチ。だからこそ少女たちが大人の思惑を拒否し、自らの意思を通してステージに立つクライマックスが輝く。

 アイドルにまつわる問題が表面化している現在だからこそ、本作が描いた問題は貴重だ。本作はフィクションだとしても、アイドル本人が演じているという“ノンフィクション”が衝撃的なのだ。現実のセイントフォーの顛末と共に。

 原田眞人が監督脚本を手掛けた80年代のテレビ映画『盗写1/250秒』を大根仁監督が『SCOOP!』としてリメイクしたように、本作もその方法で作るのはどうかしら。つい、そんなことを考えた。

あらすじ

 明日のスターをめざす4人の普通の少女たちと青年マネージャーの出会いと挑戦を描く青春映画。“セイントフォー”の4人はまさにこれからデビューするグループで、映画のシーンと現実のデビューがシンクロした企画でもあった。主演の世良公則は第一回主演作品だけあって、熱の入った演技を見せる。ちなみにセイントフォーは、所属事務所とレコード会社間の契約上問題に巻き込まれ、結成から約2年で解散に追い込まれた。紆余曲折あった後、昨年、再始動しアルバムもリリースした。

監督/新城卓
脚本/中岡京平、川村俊明
出演者/世良公則、志穂美悦子、平田満、セイントフォー

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