ドキュメンタリー映画監督の松江哲明氏が、アイドル映画を評論し……、というか、アイドル映画ってそもそもどういった作品のことを指すのか? という再定義を目指す連載。今回は俳優・内田裕也に潜むアイドル性についてです。
内田裕也の映画を観ていたら父に怒られたことがある。
「芝居が下手」だの「内容がよくわからん」だの温厚な父にしては珍しいことを言うなと思いつつ、思春期まっただ中の私は「そこがいいのに」と無言で反抗した。
私にとって内田裕也とは雄弁なポーカーフェイスである。特に『コミック雑誌なんかいらない!』は「恐縮です」と繰り返し、三浦和義に水をかけられてもマイクを突きつける芸能レポーターを演じている。ここでは心の内を語らないが故に、彼の抱える正義と狂気が観客に問いかけられていた。
撮影中の85年頃の日本の事件をまるごと捉えた本作は先に挙げたロス疑惑、日航ジャンボ墜落事故、山一抗争、さらにはおニャン子クラブ現象までも扱い、虚実を扱うエンターテイメントとしては現在もトップに立つ。ここでの内田裕也を観れば、演技とは芝居の上手い下手だけではないことが分かるだろう。
何かを考えているからこそ男は社会の器となり、世間を撃つ。感化された若き私は内田裕也映画に夢中になり、出演作は全て観た。そこには役柄を超えた「内田裕也」としか言いようのない人間が映っていたのだが、その虚構性が現実に浸食するのを目撃する機会に恵まれた。
そう、91年の都知事選出馬である。あの政見放送の衝撃は私にとって内田裕也映画のキャラクターが攻撃を仕掛けてきたかのような迫力があり(その様子は『魚からダイオキシン!』に記録されている)、私の映像体験人生の決定的な出来事となった。
晩年は指原莉乃とのデュエットで「シェキナベイベー」のイメージも維持していたが、私にとっては映画を武器にして現実へ作用させることを教えてくれた映画人であり、アイドルである。内田裕也は決して心の内を見せない。だからこそ探さずにいられない。こんなにも「もっと知りたい」と思わせてくれる欲望を持ち続けさせてくれるアイドルは、今後現れないだろう。私はROCKよりもMOVIEの手法において、その影響下にあり続けることは間違いない。
https://www.youtube.com/watch?v=Lf3yV_tGg-o
『コミック雑誌なんかいらない!』あらすじ
内田裕也、ビートたけしらが出演、芸能リポーターの活動を軸に現代社会の大衆志向を痛烈に皮肉った快作。ロス疑惑、日航機墜落、豊田商事事件など実際に起こった事件を、内田裕也扮するリポーターが突撃取材する。当時の事件関係者も多数登場。(「キネマ旬報社」データベースより)
監督/滝田洋二郎
脚本/内田裕也、高木功
出演/内田裕也、麻生祐希、桑名正博、安岡力也
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