長い間、騎手をやっていれば、いろんなことがあります。喜びも悲しみも。悔しさに唇を噛みしめたこともあったし、競馬の神様からのプレゼントに心躍らせたこともありました。そんな僕にとっても、今年の日本ダービーは、忘れられない、忘れることのできないものになりました。

 これまでなら、ダービーウィークとなると、テレビカメラの数も、記者の数も一気に増え、出走する馬を抱える厩舎にはピリピリしたムードに包まれるのが当たり前でした。ダービー当日も、東京競馬場の入場門前には、ファンが列をなし、開門とともに、いい場所を取ろうと猛ダッシュ。午前中から早くもスタンドは大盛り上がりで、“ちょっと入れ込み過ぎじゃないのかな”と心配になるほど、競馬場全体が熱気にあふれていました。そうですね、これまでの日本ダービーは、色でたとえるなら赤。それも燃えたぎった赤というイメージでした。

 それに比べて、コロナ禍の影響を受けて開催された今年の日本ダービーは、青。人も馬も闘志を心の奥底に沈め、静かに青い火花を散らしている、そんな一種異様な感じでした。3歳馬7262頭の頂点に立ったのは、福永祐一騎手騎乗のコントレイル。僕とディープインパクトのコンビ以来、史上7頭目となる無敗での二冠達成です。皐月賞で、この馬の強さは分かっているつもりでしたが、ダービーではさらに一段階、強さがアップしていました。

――競馬に絶対はないという格言を信じ、その格言を心のよりどころにして一発勝負を挑んだ僕とサトノフラッグは直線伸びずに11着。悔しいけど、今の時点では完敗です。おめでとう、ユーイチ!

 次に、このコンビに会うのは菊花賞でしょうか、それとも前哨戦か。いずれにしろ、それまでには馬も僕も、さらに成長するので、ファンの皆さん、秋を楽しみにしていてください。

 緊急事態宣言が解除されたとはいえ、無観客での競馬は、6月28日にまで続行されることが先日、JRAから発表されました。そのあとは、どうなるのか。いつになったら、いつもの競馬が戻ってくるのか。誰にも分かりません。でも、です。テレビの前で応援してくれているファンのためにも、僕ら騎手は目の前のレースに全力を尽くすだけです。

 週末は、アイスストームとのコンビで、14日、東京競馬場で開催されるG3エプソムCに参戦する予定です。前走、メイSで結果を出したように、彼にとって、東京芝1800メートルはベストな条件です。あとは……当日、良馬場になることを祈るだけです。

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